肺癌治療に関する情報誌:Lung Cancer Cutting Edge(LCCE)
2015年01月号vol.57
LCCE 特集:座談会

Ⅲ期非小細胞肺癌に対する個別化医療を考える

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坪井:Ⅲ期非小細胞肺癌(NSCLC)に対する個別化医療は、Ⅳ期NSCLCのそれに比べてあまり進んでいないように見受けられます。そこで、本日は、個別化医療を念頭に置いた臨床試験、特にⅢ期NSCLCに対する化学放射線療法に関する試験に携わっておられる外科医、放射線腫瘍医、臨床腫瘍医の先生方にお集まりいただき、縦隔リンパ節転移(N2)を有する臨床病期Ⅲ期NSCLCの個別化医療について、実地医療でのご経験に基づいたお話を中心にお聞きしたいと思います。

治療方針決定の手順

坪井:まず、先生方はⅢ期NSCLCに対する治療方針をどのような手順で決定されていますか。

仁保:切除可能なN2の場合は、陽電子放出断層撮影(PET)で転移リンパ節の領域数(single/multiple)を確認します。切除の可否を判断する場合は、超音波気管支鏡(EBUS)で組織学的N2(pN2)も確認するようにしています。

高持:当院では現在cN2pN2肺癌に対する臨床試験を行っていますので、CTで短径10 mmを超えている縦隔リンパ節に対しては必ずEBUSによる組織学的診断を行っています。cN2肺癌の場合、転移リンパ節数にかかわらずpN2であれば予後はかなり不良です。しかし、日本ではCTでsingle N2の場合は、高持一矢 先生N2の組織学的診断を行わずに、最初に手術を行い、術後補助化学療法を追加している施設が多いと思います。私たちの施設のデータでは、CTでsingle N2であった症例の64%が、実際には病理学的にmultiple N2でした1)。術後補助化学療法のコンプライアンスは術前導入化学療法よりかなり劣りますので、CT上single N2であってもpN2が証明された場合に、手術を先行するのは妥当ではないと考えています。

中山:当センターでは基本的にsingle stationのN2は切除し、single station でもbulkyな場合は手術前に化学放射線療法を行います。

坪井:上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異であれば術前導入療法としてEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)単独で治療する臨床研究も行われていますが、どのようにお考えですか。

仁保:まだエビデンスがないので勧められませんが、Ⅳ期のNSCLCでは、EGFR-TKIに加えて、未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)肺癌に対するALK阻害薬、非扁平型に対するペメトレキセド(PEM)やベバシズマブ(BEV)を含む化学療法が有効であり、これらをⅢ期に導入する研究が進んでおり、結果が期待されます。

坪井:N2の高齢者で同時照射が行えない場合は先に切除をしますか。またその場合、放射線治療はいつ行いますか。

高持:最終的には患者さんに選択してもらいますが、当科では画像上、完全切除が可能と判断した場合には、手術のみを施行することが多いです。

中山:現行の肺癌診療ガイドライン(2014年版)では、化学放射線同時併用療法の適応とならない患者さんには、化学放射線逐次併用療法または放射線単独療法が適切であるとしています。したがって、手術の適応ではないと思います。高齢者でも放射線治療(RT)は可能です。その場合はできる限り照射野を小さくし、60Gy程度の線量で抑えながら、腫瘍の局在にのみ照射します。

高持:放射線単独療法の5年生存率はどの程度ですか。

中山:過去の経験では、放射線治療に適した症例、すなわち5 cm以下のN2扁平上皮癌で上葉原発、7番リンパ節転移がない場合は40%に上りました。

坪井:高齢者に対する化学放射線療法でプラチナ製剤単剤療法についてはどのように評価されていますか。

仁保:放射線単独療法に比べて、低用量連日カルボプラチン(CBDCA)+RTの方がOSを延長させたというJCOG 0301の結果2)を受け、実地でも導入しています。毒性も比較的軽度です。

標準治療と治療成績

坪井:日本で化学放射線療法にもっとも採用されているレジメンはどの組み合わせでしょうか。

仁保:がんセンター東病院の基本レジメンはシスプラチン(CDDP)+ビノレルビンです。本邦で行われた臨床試験ベースの結果、CBDCA+パクリタキセルとCDDP+ドセタキセルの2レジメンが標準レジメンとされていますが、実臨床ではどの程度使われているか不明です。

中山:当センターでは、それらに加えて扁平上皮癌の場合はCDDP+TS-1も使われています。

坪井:抗癌剤が著効する患者さんの場合、Ⅳ期に近い治療を選択して個別化を目指すべきでしょうか。

仁保:根治的RTの追加は欠かせないと思います。

中山:照射が不可能なくらい腫大していても抗癌剤を4クール投与したら著効し照射が追加できた患者さんもいますので、確かに個別化は重要ですね。

坪井:WJOGでは、EGFR遺伝子変異を有する切除不能Ⅲ期坪井正博 先生NSCLCに対するゲフィチニブと胸部放射線治療同時併用療法に関する試験(WJOG6911L)が進められているようですが、仁保先生は内科医の立場から、化学放射線療法において細胞毒性抗癌剤は今後どのようなレジメン選択になるとお考えですか。

仁保:現在、病期Ⅲ期の非扁平上皮NSCLCを対象に、CDDP+PEM+RTとCDDP+TS-1+RTを比較する無作為化第Ⅱ相試験を行っています。ただ、今のところ、化学放射線療法で殺細胞性抗癌剤を変更してOSが延長した比較試験のデータはなく、限界があると感じています。

坪井:組織型による差についてはいかがですか。

仁保:扁平上皮については、根治照射不可能なⅢB期またはⅣ期NSCLCを対象とした臨床試験で良好な結果が得られたレジメンがあります。非扁平上皮に関してはCDDP +PEM+RTが有望な候補だと思います。

中山:化学放射線療法と放射線単独療法に関する無作為化試験のサブセット解析で、非扁平上皮癌では化学放射線療法が有意に優れていましたが、扁平上皮癌では有意差がみられませんでした3)。また、1990年代に実施された強照射試験でも、非扁平上皮癌に比べて扁平上皮癌では予後が良好でした4)。すなわち、扁平上皮癌では局所への放射線治療が重要であると考えられます。一方、非扁平上皮癌に対しては化学療法を主体な治療と考え、RTは腫瘍に限局した照射野(involved field)で構わないと思っています。involved fieldはPET-CTを参考に決定し、短径が1センチ未満と小さくてもPETで陽性であれば照射します。

坪井:肺癌診療ガイドライン(2014年版)では化学放射線療法における高線量照射の推奨度が低くなりましたね。

中山:involved fieldを用いた高線量照射74Gyと標準線量照射60Gyの比較試験(RTOG0617)の中間解析の結果、74Gyの高線量照射のほうが予後不良だったからです。

仁保:WJOG6911Lではどの照射線量を採用していますか。

中山:64Gyです。これは、今まで日本の臨床試験で使われてきた標準線量60Gyに相当します。中山優子 先生RTは放射線治療計画装置が進歩し、肺という空気を今までは水として計算していましたが、空気として正確に計算できるようになったことによります。同じように、米国では標準線量として用いてきた63Gyと同等の線量としてRTOG0617でもそうですが、60Gyを用いるようになっています。線量評価点は、日本ではアイソセンター、米国ではD95を用いています。RTでは、単に線量の数字だけでは比較できません。何の線量を示しているかが大事です。

坪井:さまざまな試験の結果から、症例を選べば化学放射線療法の奏効率は40%前後となることが示されています。このデータを踏まえて、化学放射線療法による局所療法を強化するために手術を加える意義についてはどうお考えですか。

高持:化学放射線療法の奏効例でも病理学的CRが得られない症例は少なくありません。遠隔がコントロールされている症例では、切除すれば上乗せ効果は必ずあると思います。

中山:当センターで、化学放射線療法後に手術をした症例で、長期生存が得られているのは、病理学的CR症例がほとんどです。化学放射線療法で腫瘍が顕著に縮小する症例はそのままで治癒が望めます。化学放射線療法が奏効しない症例こそ手術が必要なのではないでしょうか。

個別化医療の現状と展望

坪井:それでは、現在行われている個別化医療と今後の展開をお聞きしたいと思います。まず高持先生、現在取り組まれている術前治療+手術の研究について教えてください。

高持:Ⅳ期に有効な治療はⅢ期でも有効だと考えられます。そこでⅣ期肺癌では一般化している個別化医療のコンセプトをcN2pN2肺癌にも導入し、EGFR遺伝子変異の有無と組織型で個別化した術前導入療法について、3つの多施設共同前向き臨床試験(Personalized Induction Therapy Clinical Trial:PIT)を計画しました。EGFR遺伝子変異陰性の場合、非扁平上皮癌にはCDDP +PEM+同時RTとCDDP+PEM+BEVを比較する無作為化第II相試験(PIT-1)、扁平上皮癌にはCDDP+TS-1+同時RTの第Ⅱ相試験(PIT-2)を実施中です。EGFR遺伝子変異陽性の場合は、エルロチニブ単剤による術前導入療法の第Ⅱ相試験(PIT-3)を開始予定です。

坪井:仁保先生、腫瘍内科医の立場からみたⅢ期の個別化医療の展望をお聞かせください。

仁保:現在は分子標的薬剤の進歩が目覚ましいですが、EGFR遺伝子変異陽性の場合はⅢ期でも微小転移の頻度が高いため、寛解が難しい集団だと思います。ALK陽性肺癌に関しては詳しいデータがありませんが、ALK阻害薬は通常の化学療法より治療成績が良好であり、ALK阻害薬+手術あるいはRTは非常に興味深いです。その他にも希少肺癌に対する分子標的薬剤の開発が進んでいますので、それがⅢ期にも反映される時代が来るだろうと思います。

坪井:最後に中山先生、放射線腫瘍医の立場からの個別化医療の展望と粒子線の今後についてお聞かせください。

中山:遺伝子変異を確認後、エルロチニブまたはクリゾチニブで導入後に化学放射線療法を行う群と導入なしで化学放射線療法を行う群を比較する試験(RTOG1306)や、照射後半にPET陽性部位のみに高線量照射を行う試験(RTOG1106)が海外で進行中です。また、粒子線は腫瘍部位で止まるというすぐれた線量分布が得られます。

坪井:どのような病変が粒子線治療に適していますか。

中山:陽子線治療は広範に広がる腫瘍に適しています。また、X線と同じように化学療法と併用療法が可能です。一方、RTが奏効しにくい腫瘍には、殺細胞効果が大きい重粒子治療が適していると考えています。当センターでは2015年に重粒子治療を開始しますので、大変期待しています。

坪井:Ⅲ期NSCLCの個別化医療について、Ⅳ期の治療開発に伴って化学療法あるいは手術の位置づけが変わる可能性があること、新しいRTの技術に伴って個別化実現の可能性があることなど非常に期待できるお話をそれぞれの立場から伺えました。先生方、本日はどうもありがとうございました。

集合写真
  1. Matsunaga T, et al. Time to refine N2 staging? cN2α and cN2β based on local regional involvement provide a more accurate prognosis in surgically treated ⅢA non-small-cell lung cancer than N2 alone or the number of node stations involved. Eur J Cardiothorac Surg. 2014;46:86-91.
  2. Atagi S, et al. Thoracic radiotherapy with or without daily low-dose carboplatin in elderly patients with non-small-cell lung cancer: a randomised, controlled, phase 3 trial by the Japan Clinical Oncology Group (JCOG0301). Lancet Oncol. 2012;13:671-8.
  3. Sause W, et al. Final results of phase Ⅲ trial in regionally advanced unresectable non-small cell lung cancer: Radiation Therapy Oncology Group, Eastern Cooperative Oncology Group, and Southwest Oncology Group. Chest. 2000;117:358-64.
  4. Saunders M, et al. Continuous, hyperfractionated, accelerated radiotherapy (CHART) versus conventional radiotherapy in non-small cell lung cancer: mature data from the randomised multicentre trial. CHART Steering committee. Radiother Oncol. 1999;52:137-48.