肺癌治療に関する情報誌:Lung Cancer Cutting Edge(LCCE)
2015年04月号vol.60
LCCE 特集:座談会

チロシンキナーゼ阻害剤の
beyond PDについて考える

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井上:上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異陽性例に対しては、日本肺癌学会肺癌診療ガイドラインでチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の単剤使用が推奨されていますが、ほとんどの症例で耐性を獲得します。進行(PD)が認められた時に、EGFR-TKIを単剤のまま継続する、あるいは化学療法を併用するという「beyond PD」が近年話題になっています。本日は「TKIのbeyond PD」をテーマに、EGFR-TKI治療の経験が豊富な先生方にお集まりいただき、ご意見を伺いたいと思います。

PD後の化学療法上乗せのbeyond PD

井上:2014年の秋に欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で、EGFR-TKI単剤で耐性が生じた時に化学療法を上乗せするメリットについて検討したIMPRESS試験の結果が発表されましたが、試験概要とその結果について簡単にご説明いただけますか。

堀田:IMPRESS試験は、ゲフィチニブ抵抗性の非小細胞肺癌(NSCLC)患者に対して、ゲフィチニブとプラチナ製剤を含む2剤併用化学療法(プラチナダブレット)を併用する群と化学療法のみの群を比較し、ゲフィチニブのbeyond PDの有用性を評価した第Ⅲ相試験です。主要評価項目は無増悪生存率(PFS)、副次評価項目は全生存期間(OS)、奏効率、病勢制御率、安全性などでした。対象患者は日本人も含まれています。PFSに有意差は認められなかったものの、OSはゲフィチニブ継続群のほうが有意に短かったという解釈の難しい結果でした。

井上:2014年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表されたLUX-Lung 5試験では、アファチニブのbeyond PDが主要評価項目としてはポジティブであったという結果ですが、どのように解釈されますか。

秦:LUX-Lung 5試験は、アファチニブ単剤で効果が認められた患者に対し、PD後に化学療法(パクリタキセル単剤)と併用したbeyond PDのアファチニブの治療効果が得られるかどうかを化学療法(単剤)と比較検討した第Ⅲ相試験です。併用群は単剤群に比べて奏効率、PFSともに優れていましたが、OSには差がみられませんでした。この試験では、EGFRの遺伝子変異状態が前治療で明らかにされておらず、今のところは純粋なbeyond PDを語る上では不十分なデータだと思います。プラチナダブレット+EGFR-TKIを行ったIMPRESS試験のbeyond PDは否定的な結果でしたが、単剤の化学療法併用の場合は期待できるという解釈ができるかもしれません。また、1つの後ろ向きの報告ではありますが、beyond PDでEGFR-TKIの使用を継続する患者に対して、単剤化学療法を併用すると効果が認められたものの、プラチナダブレットではメリットが小さかったという報告もあります1)

井上:基礎研究に井上 彰 先生おいては、EGFR-TKI耐性腫瘍に対してTKIに殺細胞性抗癌剤を上乗せすることで効果の増強が示され期待されたのですが、臨床試験ではうまく再現できなかったと言えますね。秦先生が仰るように単剤なら良いのか、もしくは他の分子標的薬との併用なら良いのか、など課題はいろいろありますが、少なくとも現時点では実験的な治療ですから日常臨床で行うべきではないというコンセンサスでよろしいかと思います。

TKI単剤のbeyond PDの意義とrechallengeの有用性

井上:Beyond PDという言葉が出てきた当初は、(乳癌におけるトラスツズマブのように)PD後もある薬剤は継続しながら別の薬剤を併用することを指していたと思いますが、肺癌の領域ではEGFR-TKI単剤のみをPD後も継続することもbeyond PDと呼ばれ、新たな研究課題となっています。エビデンスの1つとして2014年のASCOで発表されたがん臨床研究支援事業(CSPOR)の結果を紹介していただけますか。

細見:CSPOR LC-02は31施設からEGFR-TKI使用症例を3年間収集し、RECISTによる増悪判定(RECIST PD)に至った後の実際のEGFR-TKI使用状況について調査する観察研究です。進行によって何かしらの臨床症状を有する場合や複数個所での増大、主要臓器を脅かすものを臨床的悪化(clinical PD)と定義して、それに至るまでの期間を評価しました。577例について解析した結果、RECIST PDからclinical PDまで継続した患者とRECIST PDの時点で中止した患者ではRECIST PD後のOSに大きな差はみられませんでした(図1)。
ただ、beyond PDでEGFR-TKIの継続が可能であった患者はPSが良好であったなどのバイアスがありますので、解析の補正は必要だと思います。おそらく、実臨床では継続を迷った際に、PSが良好であれば継続を選択していると思われます。

図1
図1
Group A: RECIST PD とClinical PDが同時に起きたグループ
Group B: Clinical PD なしにRECIST PDとなりEGFRTKIを中止したグループ
Group C: Clinical PD なしにRECIST PDとなりEGFR TKIを継続したグループ
Yuki Yamane, ESMO 2014 Poster Display session.

井上:一方、秦先生は、EGFR-TKI耐性獲得後に一定期間休薬して再度TKI治療を再開するrechallengeが予後に寄与しているという研究結果を2012年にASCOで報告されましたが、対象者にbeyond PDの患者は含まれていましたか。

秦:ほとんど含まれていませんでした。脳転移や骨転移など転移部位によっても結果が異なるとは思いますが、腫瘍サイズが小さい患者はbeyond PDの良い適応だと思います。rechallengeに関してもbeyond PDと同様で、後ろ向きにみると、PSが良好な患者の予後は良い結果になりました(表1、図2)。当院では、EGFR遺伝子変異陽性患者は、可能であればほぼ全例rechallengeを行っています。

図2:Postprogression survivals with or without EGFR-TKI rechallenge
The median PPS with TKI rechallenge (n=59) was 21.6 months, and without TKI rechallenge (n=19) 9.7 months (p = 0.0013).
Akito Hata, 2012 ASCO Annual Meeting Poster Discussion Session.
図2
表1
         Akito Hata, 2012 ASCO Annual Meeting Poster Discussion Session.

井上:今後、第3世代のEGFR-TKIの登場が期待されますので、初回治療でEGFR-TKIを用いた患者さんにTKI治療を再度行う有用性が証明され、beyond PDが不要となる時代が来るかもしれませんね。

秦:進行速度が速くて腫瘍サイズが大きい患者にbeyond PDを行うと症状発現が必至ですので、このような場合には薬剤変更を選択すべきだと考えます。

堀田:本来エビデンスに従って、RECIST PDを迎えた時点で治療を切り上げるのが筋でしょう。とくに選択できる薬剤が堀田 勝幸 先生多く残されている場合などです。一方、Ⅳ期においてlive longerだけでなくlive betterも重要であることを踏まえますと、EGFR-TKI治療でQOLが保てている状況下の「RECIST PD=即レジメン変更」というのは実臨床になじまない場合も時々あります。高齢患者かどうか、進行速度が緩やかかどうか、患者さんの関連自覚症状出現の有無などを総合的に評価しながら、患者さんと相談の上、レジメン切り替えのタイミングを決めています。

細見:確かに、高齢者でbeyond PDとしてEGFR-TKIを継続してSDが期待できる場合、EGFR-TKI継続か薬剤変更かを悩むことがありますが、どうされていますか。

井上:私は高齢者でもPSが良好であればプラチナダブレットをお勧めしていますが、副作用を懸念して化学療法を希望されない患者さんも少なくないのが現状です。この辺は、リスクとベネフィットについて十分説明した上で、患者さんの希望に沿った治療を選択すれば良いと思います。

ALK-TKIの考え方〜EGFR-TKIと同様か〜

井上:今後、未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)-TKIの開発も進むと思われますが、beyond PDについてはEGFR-TKIと同様の考え方でよろしいでしょうか。

堀田:まだエビデンスはありませんが、基本的に同じではないかと思われます。PD時の他のALK-TKIへの切り替えについては、クリゾチニブでRECIST PD後、アレクチニブの投与により約50%が奏効します。一方、アレクチニブでRECIST PDになった時の対処方法に悩んでいます。

秦:beyond PDの考え方に関しては私も同様だと思秦 明登 先生います。ただし、ALK-TKIではクリゾチニブ無効後にアレクチニブへ直接切り替えることで一定以上の奏効が期待できるようですが2)、EGFR-TKIではゲフィチニブやエルロチニブ無効後にアファチニブに直接切り替えても奏効はあまり期待できません。第3世代のEGFR-TKIが登場すれば直接切り替えても効果が期待できますが、EGFR-TKIの場合、現状ではある程度のTKI-free interval後にrechallengeするほうが効果を期待できると思います。

井上:基本的にALK遺伝子転座陽性例においてもALK-TKIとともにプラチナ製剤やペメトレキセドは重要な薬剤だと思いますので、若年でPS良好な患者さんに対しては次世代ALK-TKIで治療を行う前に化学療法を行うべきと考えてよろしいでしょうか。

堀田:プラチナ後でもALK阻害薬の有効性が担保されていることを示唆する臨床データもありますので3)、基本的に勧めるようにしています。

井上:EGFR-TKIでも十分なエビデンスが示されなかったので、ALK-TKIと化学療法の併用については現時点では考えにくく、ALK遺伝子転座陽性例のbeyond PDに関してはこれからのエビデンスの蓄積が待たれますね。

TKI継続時のホスピスへの紹介について

井上:高齢者の初回治療(もしくは若年者を含めたrechallenge)では、おそらくTKIが最後の抗癌剤治療だろうと考えられるケースも多いと思います。副作用も許容範囲内であればbeyond PDも十分あり得る状況と思いますが、徐々に全身状態が悪くなってきた際の緩和ケア施設への移行が時に悩ましいことがあります。例えば、当病院の緩和ケア病棟は何らかの抗癌剤治療中だと予約すらできません。先生方の施設で細見 幸生 先生はいかがですか。

細見:駒込病院の緩和ケア科でも、TKIを継続しながらの入院は難しく、TKIを継続するのであれば、在宅で頑張っていただくしかないのが現状です。

秦:TKI継続を希望される場合は、在宅で頑張ってくださいとお話しています。また、当院にて月単位のTKIを処方後、治療を継続しながら受け入れてくれる療養型の病院が一部ありますので、患者さんが希望されれば紹介することもあります。

井上:それは良いアイデアだと思うのですが、地域によっては長期処方をした後すぐに別の病院に入院された場合は、その処方分が査定されることもあるようです。治療の進歩に現在の医療制度が追いついてない面が多分に感じられますね。

堀田:当院では緩和ケア病棟がないこともあり、終末期を我々だけで対応することには難しい現状があります。緩和ケア施設への入所を患者さんが希望されても、その時に抗癌剤を使用中であれば受け入れてもらえず、困っています。抗癌剤治療を継続しつつ、緩和医療を行ってくれる転院先を他に探すことができればいいのですが、なかなか見つかりません。

井上:患者さんが長い間効果を出してくれていたTKIの中止をためらう気持ちは十分理解できますが、一方で医師がTKI中止から短期で死亡してしまうフレアを恐れて中止を躊躇することも多い気がします。終末期で予後の見通しが週単位であればフレアと病状の進行は区別できないはずなのでTKIの止め時とは思います。

細見:フレアの定義が一貫していないことも問題です。フレアが20%で生じたという高い発生率の報告もありますが4)、実臨床では20%の発生率は少し高すぎる印象を持っています。CSPOR LC02では約1%でした。

井上:緩和ケア施設側の医師にも最近の分子標的薬では多少悪化しても継続するメリットがあることを十分理解していただく必要があると思います。一方、治療する側もどんなに有効な薬でもいつかは中止すべき時が来ることを患者さんにうまく伝える努力が必要ですね。患者さんの意思を尊重しながら、TKIを継続するか他の治療へ切り替えるか、もしくはBSCのみへ移行するかを適切に判断することが重要です。今日はbeyond PDについて、非常に多岐にわたるテーマで話していただきました。ありがとうございました。

集合写真
  1. Goldberg SB, et al. Chemotherapy with Erlotinib or chemotherapy alone in advanced non-small cell lung cancer with acquired resistance to EGFR tyrosine kinase inhibitors. Oncologist 2013;18:1214-20.
  2. Seto T, et al. Anti-Tumor Activity of Alectinib in Crizotinib Pre-Treated ALK-Rearranged NSCLC in JP28927 Study. Annals of Oncology 2014;25(suppl 4): iv426-70.
  3. Shaw AT, et al. Crizotinib Versus Chemotherapy in Advanced ALK-Positive Lung Cancer. N Engl J Med 2013;368:2385-94.
  4. Chaft JE, et al. Disease Flare after Tyrosine Kinase Inhibitor Discontinuation in Patients with EGFR-Mutant Lung Cancer and Acquired Resistance to Erlotinib or Gefitinib: Implications for Clinical Trial Design. Clin Cancer Res 2011;17:6298-303.