肺癌治療に関する情報誌:Lung Cancer Cutting Edge(LCCE)
2015年05月号vol.61
LCCE 特集:座談会

エディターが語る:
アクセプトしたくなる論文とは?

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光冨:本日は、Carcinogenesisのエディターを長きにわたってお務めになっている高橋先生と、本誌Lung Cancer Cutting Edgeの読者にも馴染み深いJournal of Thoracic Oncology(JTO)のエディターである豊岡先生をお迎えし、アクセプトされやすい論文の作成方法について、エディターの立場から様々なヒントをお聞きしたいと思います。

医学雑誌のエディターの役割

光冨:Carcinogenesisは基礎系のジャーナルですね。高橋先生が担当されている具体的な役割を教えてください。

高橋:CarcinogenesisはOxford University Pressが発行しているがん研究の総合誌で、4領域、エディターが4人います。私はbiology genetics and epigeneticsを担当しており、cancer biomarkers and molecular epidemiologyを担当しているCurtis C. HarrisがEditor-in-Chiefを兼務。まず彼が全体を見ながら4人のエディターに投稿された論文を割り振り、私は年間300~400報ほど担当しています。

光冨:かなりの数ですね。エディターの段階でリジェクトすることはありますか。またあるとすればその割合はどの程度ですか。

高橋:約半数をエディターの段階でリジェクトして、パスしたものを2~3人のレビュアーに送っています。Carcinogenesisではアクセプト率やその決定までに要した日数などの細かい分析データを月間、年間で集計しており、最終的なアクセプト率は20%台です。

光冨:JTOはいかがですか。

豊岡:JTOは胸部悪性腫瘍を扱うジャーナルで、国際肺癌学会(IASLC)の機関誌です。近年は臨床試験の論文が主で、アクセプト率は30%程度。高橋先生とは異なり、私は外科の担当で月に1報担当する程度です。エディターの段階でリジェクトするケースはほとんどなく、今までに私がリジェクトした論文は症例報告の体裁をとっているなど投稿規定に従っていないケースのみで、基本的には全件をレビュアーに送っています。

光冨:私は2014年から全がん種の臨床をカバーしているAnnals of Oncologyのエディターを担当しています。肺癌担当のエディターは私を含めて2人、2014 年には2人で175報担当しました。アクセプト率についてEditor-in-ChiefのJean-Charles Soriaのポリシーがあり、エディターの段階で80%をリジェクトするという方針で、最終的なアクセプト率は10%程度とするよう当初より求められていましたが、実際は13%でした。Annals of Oncologyの場合はインパクトファクター10を獲得するという目標があり、第III相臨床試験の論文を積極的に取りたいと考えています。一方で、単施設の後ろ向き研究は基本的にエディター段階でリジェクトするよう求められています。先生方がリジェクトする基準やポリシーがあれば教えてください。

高橋:最重要視しているのは投稿された論文の品質です。知見の新規性や、その知見が堅固なエビデンスに基づいているかをチェックします。descriptive な論文は雑誌の性格上あまり好まれず、mechanisticな検討が行われていることが求められます。

光冨:品質に関しては基準の設定が困難で、エディターへの負荷が高いですね。

高橋:はい。しかし、以前に私たちエディターの段階でリジェクトした論文がその後どのような雑誌に掲載されたかを調査したことがありますが、アクセプトされていた雑誌はほぼ例外なくインパクトファクターがCarcinogenesis(5.266)より低い雑誌で、エディターの判断は妥当だっただろうと考えています。

光冨:レビュアーの推薦についてはどの程度考慮しますか。

高橋:レビュアーの推薦がある場合は、PubMedなどのデータベースを用いてそのレビュアーのポジションや過去に発表した論文などを確認するようにしています。そのうえで、推薦の内容が妥当で、著者とレビュアーに直接の関連がないと思われれば採用することもあります。推薦を重視しているわけではありませんが、考慮はしています。

光冨:レビュアーの意見が割れたときはどうされていますか。

豊岡:豊岡伸一先生JTOでは2人のレビュアーで査読をしているので、意見が割れた場合は、第三者のレビュアーの意見を聞きますが、レビュアーが見つからない場合などは時間の関係で私がレビュアーの立場で最終的に決定することもあります。

光冨:我々臨床系の雑誌ではレビュアー探しに苦労したり、依頼しても断られたりすることがありますが、基礎系のCarcinogenesisではいかがですか。

高橋:まれに論文の内容によってはなかなか決まらないことがありますが、最初に5人のレビュアーをピックアップしておき、決まらないときは順次追加レビュアーを選ぶシステムになっていますので、あまり苦労することはありません。また、レビュアーの採点機能を活用して、レベルの低いレビュアーは次回からピックアップされない設定に変更し、レビュアーの質の向上も心がけています。

アクセプト率向上のために

光冨:レビュアーから疑義照会や修正指示/提案があった場合の著者の対応が非常に重要だと私は考えていますが、修正した原稿を再提出する際のカバーレターの記載方法について何かアドバイスはありますか。

高橋:レビュアーは基本的に、投稿された論文をより良いものにするために修正指示/提案をしていますので、査読コメントに誠意のある対応をすることが重要です。しかし、レビュアーの提案を必ずしもすべて受け入れる必要はなく、レビュアーのコメントが妥当でなければ、しっかりとした根拠を提示して反論すべきだと思います。

豊岡:レビュアーは自らの仕事が忙しい中で査読を行っていると思いますので、指摘しているところに何らかのレスポンスをすることは大前提ですね。レビュアーのコメントの1つ1つを引用してその対応を反映した本文の箇所が明示されているrebuttal letter(反論のレター)には非常に好感を持ちます。その都度原稿に戻って修正箇所を確認しなければいけないというのは、手間がかかりますので。

光冨:他にどのようなことに気を付ければよいでしょうか。

高橋:豊岡伸一先生英語としての表現が不十分なために、全体の印象が悪くなってしまうことがありますが、そのためにそれまで費やしたエネルギーや時間が十分に活きないのは残念すぎます。rebuttal letterや再提出の原稿を含めて、英語のネイティブスピーカーによるチェックは必ず行った方がいいと思います。revise時の修正箇所がかなり限定的であれば、その部分だけ再チェック依頼をすればよいと思います。

光冨:初回提出時には英文チェックを行う人は多いでしょうが、修正時にそこまでする人は少ないかもしれません。

高橋:ただ、修正後に大きく構成が変わることもありますので、チェックは必須です。なお、ネイティブスピーカーによる英文チェック後の表現が、絶対正しいとは限らないです。ですから、疑問に思った点については校正者に確認して、きちんと納得したうえで提出するべきです。

豊岡:私は、適切で公平なreferenceの選び方をしているかもチェックするようにしています。特に、投稿する論文がすでに周知の「ある事象」に関する新しい知見である場合、その第一報となる論文をキーペーパーとして引用しているかどうかは重要です。また、図表の幅が揃っているかなどの見た目の美しさ、figureとするのかfig.とするのかなどの表記方法の統一は少しの努力で改善できますので、是非留意してほしいです。部分は全体を反映しています。細部まで神経が行き届いた論文は好印象です。あと全体的なケアレスミスは必ずチェックしてほしいです。

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倫理規定と利益相反

光冨:豊岡伸一先生雑誌によってかなり異なると思いますが、倫理規定やCOIについては特にどのようなことをチェックされていますか。

高橋:データの操作や剽窃は決してあってはいけないことです。Carcinogenesisでは、剽窃に関しては、既発表の論文との一致率が確認できるソフトウエアを使用しています。また最近は、出版後に世界中から匿名を含む指摘が寄せられますが、Carcinogenesisは、Committee on Publication Ethics (COPE)のメンバーであり、そのガイドラインに準拠した対応をしています。

豊岡:COIについては、エディターのレベルでチェックすることは基本的にはありません。しかし、JTOでもルールはかなり厳しくなっています。

光冨:他の論文との表現の重複はどの程度から検出できるのですか。

高橋:ブロック単位での他の論文からのコピーアンドペーストは勿論、%単位で一致率は分かります。名古屋大学でも同様のソフトウエアを導入していますが、投稿前にそのようなアプリケーションを活用すると良いですね。

これから論文を投稿する人へ

光冨:医学分野では、英文の論文を発表することは不可欠なのですが、臨床医学の日本の英語論文は残念ながら減少しているとのデータもあります。今後英文での論文発表を志す人たちにアドバイスをお願いします。

高橋:論文を発表することで自分の研究成果を世界の人とシェアすることができますので、若い先生には是非こつこつと自分で英語の論文を書く努力をしてほしいです。指導する先生方も、自分でやれば何倍も早いのは確かですが、そのことを肝に銘じて若い先生方を育ててほしいですね。

光冨:私も恩師の杉町圭蔵先生から英文で書くことを強調されました。学会発表も重要ですが、ずっと残るものではありません。杉町先生は線香花火とおっしゃっていました。学会で発表した内容を英語の論文にして文献として残し、世界でシェアすることが重要だと実感するようになりました。

豊岡:英語で書くことに慣れず、抵抗を感じる人もいるでしょうが、英語の論文執筆は経験を積むにしたがって、ある程度、自らのスタイルが身についてくると思います。こればかりは英語で執筆しないと上達しません。まずはチャレンジしてもらいたいと思います。その過程で、初めはきちんとした指導を受けることは大切だと思います。

高橋:現在では、中国から投稿される論文数は日本を遥かに抜いて、アメリカを超えようかとしています。まだアクセプト率が低いため、発表論文数にはそれほど大きく反映されていませんが、論文の質も年々確実に向上してきていて、近い将来に質、量ともに日本を抜き去るように感じます。

光冨:少し危機感を覚えますね。

高橋:私の研究室では、今、ドイツ、マレーシア、中国など様々な国から研究員が来ています。彼らを見ていると、本当に若い世代のモチベーションの高さといい意味での野心を肌で感じます。

豊岡:臨床研究ではアメリカへ留学する医師が減少傾向であるということからも、日本人の研究者たちのモチベーションが低くなっている気がします。アメリカも最近はなかなか有給のポジションが少なくなっている印象があることも留学者の減少に拍車をかけていると思います。ただ、留学経験は今後のキャリアパスにも大きな影響を与えることも多いかと思います。ぜひ何らかの形で挑戦してもらいたく思います。

光冨:私にとって留学は人生の1つの大きな転機で、方向性を決める上でも非常に大きな意味を持っていました。おそらく先生方も同意見ではないでしょうか。

高橋:そうですね。留学には、視野が広がったり、切磋琢磨した仲間とその後もお互いに刺激を与え合えたりという素晴らしいメリットもありますから、若い先生方にもぜひ留学して広い世界をみる積極性を持ってほしいですね。

光冨:本日は基礎系および臨床系の雑誌のエディターの立場から、投稿論文のブラッシュアップの方法やアクセプト率を上げるためのヒントをお話しいただきました。若い先生方にはぜひ留学や英語の論文投稿への果敢な挑戦を期待しています。本日はどうもありがとうございました。

集合写真