肺癌治療に関する情報誌:Lung Cancer Cutting Edge(LCCE)
2015年07月号vol.62
LCCE 特集:座談会

呼吸器領域におけるロボット手術の展望
~ダヴィンチの現場から見えたこと~

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本邦でも呼吸器手術において、ロボット「ダヴィンチ」の利用が普及しつつある。ダヴィンチは、アメリカで1980年代後半に開発された内視鏡手術支援ロボットで、術者が座って手術用アームを遠隔操作するサージョンコンソール、患者が手術を受けるペイシェントカート、高性能の画像システムなどから構成され、高度な内視鏡手術を行うことができる。 日本では2009年にダヴィンチ手術が薬事承認され、189台(2014年12月現在)が導入されている。今回の座談会では、ダヴィンチを実際に利用している医師にお集まりいただき、その現状と展望を語っていただいた。

これまでのダヴィンチ症例数

岡田:はじめに、皆様のダヴィンチによるロボット手術の経験をお聞かせいただけますか。

池田:東京医科大学でのダヴィンチの手術総数は、縦隔腫瘍手術が21例、肺癌を含む肺腫瘍手術が2例です。導入当初は、ダヴィンチとそれに伴うシステムに慣れるところから始めようと思い、縦隔腫瘍の手術を集中的に行いました。縦隔腫瘍の手術は合併症もなく行うことができており、術者もチームもシステムに慣れました。その後、ダヴィンチは主として縦隔腫瘍で使用し、肺癌のほうはロボット手術よりも、まず完全胸腔鏡下手術を確立するという方針を科内全体で広げることになり、それが現在に至っています。

岡田:今後、徐々にダヴィンチでも肺癌手術を行うのですか。

池田:肺癌に対してダヴィンチ手術と完全胸腔鏡下手術を比較できる十分な体制ができたと考えています。ただ、ダヴィンチ手術は保険適応でなく、病院が費用を負担する必要があるので月に最大2例程度までという制約があります。

伊達:京都大学では、2011年の12月からダヴィンチを導入しまして、最初から肺癌手術を始め、2012年1月には拡大胸腺摘出手術を行いました。現在までの経験は肺癌が23例、縦隔腫瘍が11例、合計34例になっています。術者は2人で交互に手術を行っています。

岡田:肺癌と縦隔腫瘍の術者はランダムに選択しているのですか。

伊達:伊達洋至先生ランダムです。中村先生はどうですか。

中村:鳥取大学で最初にダヴィンチ手術を始めたのは2011年の1月です。現在、肺癌手術が37例、縦隔腫瘍手術は30例、計67例の手術をしています。術者は4人います。

岡田:広島大学では、2011年9月に開始しまして、症例は肺癌が36例、縦隔腫瘍は8例で、合計44例です。特徴は区域切除が多くて、肺葉切除が24例、区域切除が12例になっています。肺癌と縦隔腫瘍は別々の術者で行っています。

在院日数が減り、術者は快適だが
ロボット手術は発展途上の過程にある

岡田:呼吸器外科領域では胸腔鏡手術が標準と言って良いほど普及していますが、ロボット手術のメリットはどのようなところにあるでしょうか。

池田:池田徳彦先生術者と患者さんがともにメリットを共有しなければならないと思います。胸腔鏡下手術ではカメラを持っている人の技量が重要で、不慣れですと手術自体がリズムの合わない2人羽織のようになってしまいます。一方、ダヴィンチ手術ではスーパーハンドとスーパーアイを持つロボットを自らの操作で手術が進められ、手術のやりやすさと安全性を術者が感じ、それが患者にとってもメリットとして共有できると思います。

伊達:加えて、患者さんにとってのメリットは痛みが軽減できる可能性があると思います。在院日数も減りますね。

岡田:内視鏡手術と比べるといかがでしょうか。

伊達:ダヴィンチは手術中に機器の出し入れが少ない点が評価できます。特に道具に関節があるので、「胸腔鏡ではこういう角度で組織を持てない」ということが頻繁ですし、胸の中に入っているような感覚で手術を進められます。さらに手術時の手ぶれもありませんし(注:ダヴィンチには、術者の手の動きを縮小して手ぶれを補正し、極めて精緻な動作を行う機能がある)、座ってできるので疲れません。結果として、外科医の寿命を延ばすだろうと思います。

中村:中村廣繁先生そうですね。あとダヴィンチの3D画像は、視認性が良くて目が疲れません。術者が自在に画像を拡大できますし、鉗子の関節で精緻な操作ができます。こうした要素が手術のクオリティを上げるでしょう。郭清や肺門の血管剥離も鉗子の関節によって安全に、肺を傷つけずにできる可能性が高い。これらのメリットが、患者さんの合併症を少なくするといいのですが。

岡田:ダヴィンチ手術と胸腔鏡下手術との比較において、その違いを立証するのはとても難しいですね。

中村:その通りです。最近CHESTという雑誌に出たアメリカの大規模データベースからの報告では、ダヴィンチ手術後の合併症が多かったとの記述があります1)。総じてダヴィンチ手術は発展途上の段階です。ほかとの比較で有意差をつけるというよりも、さらにいいアイデアを現場から出して、ロボット手術を1つのオプションとして確立していくことが優先されるのではないでしょうか。

機器の小型化、鉗子の改良など改善が必要だが
将来はビックデータ活用なども可能になる

岡田:ダヴィンチで改善すべき点はございますか。

池田:ロボット自体が、よりコンパクトになる可能性は大きいと思います。

中村:ペイシェントカートのアームも、もっと小型になったほうが良いと思います。

池田:加えて、肺動脈のような非常に脆弱な血管を鉗子で触る際、現在の内視鏡下手術ですと、指先に感覚が伝わるのですが、ダヴィンチでは触覚がなく、視覚に頼って手術を行うことになります。やはり経験で解決していく部分もあると思います。

岡田:岡田守人先生血管の引っ張り具合や縫合糸の締め付け程度など、視覚で代用できるようになると思います。

中村:鉗子で挟み込み、挟んだものの固さを図る圧力センサーシステムはできています。現在、触覚を10段階評価でフィードバックするシステムの開発が進んでいて、今後実用化が目指されます。そのほかには、光学系の分野の改善が進むと言われていますね。今の3D画像は2Kですが、今後は4Kにすると聞いています。

岡田:ダヴィンチXiという新機種の展望はいかがでしょうか。本年1月のSTS会議で試用したのですが、あらゆる面でこれまでとは大きく進歩している印象です。

中村:Xiは可動範囲が拡がり、スコープも小型でどのアームにも装着可能です。呼吸器外科領域で大きなメリットが期待されます。また、これまで手術は外科医の経験によって成り立ってきましたが、ロボット手術では経験をデータとして蓄積することができます。どういう動きが一番効率的か手術後に解析でき、それをトレーニング活用できます。

肺癌領域でのダヴィンチ手術普及には
保険適用か混合診療へ

岡田:ダヴィンチの将来への夢は尽きないですね。それでは今後日本で、どのようにロボット手術を普及させていけば良いでしょうか。

中村:ロボット手術は混合診療、保険診療、自費診療、公費診療といくつかのパターンがあります。混合診療はすぐには難しいですし、厚生労働省の先進医療会議での承認もハードルが高いですので、自費診療か公費診療になります。しかし多くの病院は公費診療でのダヴィンチ手術は5例から10例までで、それ以降は自費診療になります。自費診療になると、手術件数がいきなり減りますね。

岡田:自費診療では患者さんには金銭的負担、術者には精神的プレッシャーがかかります。

中村:その通りで、保険適用の道を探るのが最善策になります。先進医療としての保険適用が困難である場合、2つのやり方があります。1つは外科系学会社会保険委員会連合(外保連)を通して申請する方法です。他方はダヴィンチを医療機器と見なして、C2(新たな医療材料)申請をする方法です。

伊達:実際に申請が通る見込みはあるのでしょうか?

中村:外保連申請もC2申請も、学会が合同で働きかける必要があります。日本内視鏡外科学会主導による、大腸癌、肺癌、食道癌の3領域手術の同時申請が、今一番近い動きです。

池田:学会が申請するとなると、日本呼吸器外科学会と内視鏡外科学会が協力していくべきでしょうね。

岡田:ロボット技術の広範な普及には、保険診療として多くの先生方に認知していただくことが大事でしょう。

中村:はい。その一方で、保険診療になった場合に、ダヴィンチを持っている医療施設が経営上の理由から手術数をこなさなければならないプレッシャーがかかってきます。日本は1台あたりのダヴィンチの症例数が世界最低レベルです。

岡田:普及するにあたって開始当初はトラブルが頻発したら大変ですから、クオリティコントロールが必要ですね。

中村:そういう意味では、先進医療会議で指摘されたのはトレーニング体制や安全面に対する研究会も含めた技術提携をプロトコールに盛り込むべきとのことでした。将来的な安全性確保などを踏まえますと、特定機能病院を中心に進んでいくかもしれません。

岡田:さまざまな課題がありつつも、ロボット手術のメリットや可能性は尽きません。今後も私たち外科医が日々精進して手術の腕を磨き、患者さん第一の治療を目指したいと思います。本日は先生方、本当にありがとうございました。

  1. Paul S, et al. Comparative effectiveness of robotic-assisted vs thoracoscopic lobectomy. Chest 2014;146:1505-12.