肺癌治療に関する情報誌:Lung Cancer Cutting Edge(LCCE)
2016年03月号vol.66
LCCE 特集:座談会

“英会話力”~日本人医師が世界で活躍するために~

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関:現在、日本に住む外国人は約2%ですが、観光などの目的で出入国する外国人数は、10年前から1000万人以上にまで増加しています1)。2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて、外国人数はさらに増える事が予想されます。患者が日本語を話す人ばかりとは限りませんし、通訳の確保が難しい場合も多々あります。そんな中、医師が英語とどのように向き合うかは、今後ますます重要な課題になるでしょう。そもそも、日本の医師は英語論文に触れる機会が多いので英語の「読み・書き」は比較的得意ですが、やはり「話す・聞く」は苦手な方も多いのではないでしょうか。国際学会などで、「日本語であればもっと質問できたのに」と思うこともあるでしょう。今回の座談会では、英会話上達の習得法や、世界で活躍するための英語力の磨き方について普段英語を使ってお仕事をされていらっしゃる先生方に伺います。

「話すのは度胸、聞くのはセンス」英会話上達の方法

関:関順彦先生私が10年前に米国臨床腫瘍学会で口頭発表をした際、発表自体はなんとかできたものの、質疑応答になると、相手の質問をうまく聞き取れなかったという苦い経験があります。もともと自分が一生懸命準備して行う発表では、発音や抑揚のうまさは別として、伝えたいことは言えるものです。しかし、質疑応答では、そうはいきません。結局、座長の先生に、「ちょっとご質問されている意味がよく分からないのですが、端的にいうと、どういうことをおっしゃっているのでしょうか」とお訪ねし、イエスかノーかで答えられるような質問に翻訳してもらって、その場を収束させました。日本の医師のなかには、外国人演者を前にした場合、質問されないよう、プレゼンターの視界に入らない位置に席を確保する方もいたりするようです。
こうした現状を知って頂いたうえで、小井先生に質問させてください。先生は新極真会の事務局長として毎月海外支部に出向かれる以外にも、世界大会などで海外のゲストと接し、外国人の生徒さんもいる空手道場を開いておられるので、英語で指導する機会が多いはずです。「空手」、「医療」と業界は異なるものの、英会話に対する戸惑いは共通する部分があるのではないでしょうか。小井先生がこれまでご経験された、英語に関する苦労話があれば、ぜひお聞かせください。

小井:NPO法人全世界空手道連盟新極真会は、現在、世界92ヵ国に加盟国を持つ団体で、年に7、8回は1週間単位で海外出張して現地で指導や打ち合わせなどをしますから英語は必須です。私はもともと商社勤めだったこともあり、英語の読み・書きに関しては仕事を通してある程度できるようになった実感はあります。ところが、空手の指導において大事になるのはやはり話す・聞く部分なのです。
実は、話す力というか英語力が不十分だったとき、空手世界大会のイベントで司会をしたことがあります。隣に通訳者がいて、通訳を通じて話すのですけど、言いたいことが感情を込めて全然伝わりませんでした。そんな私の姿を見た関係者から、「まるでロボットみたい」と言われ、すごく悔しい思いをしました。

関:それから、どうされたのですか。

小井:そのイベントの後、悔しくて徹底的に英語の勉強をしようと決意し、3年ほど英会話に没頭しました。語学学校と、英会話カフェなど英語を話したい人が集まる場所に通い、とにかく毎日英語に触れる時間を作っていました。うちの事務局の周りに自分より英会話のできるスタッフがいると、悔しい思いをするわけですが、落ち込むのではなく、「英語の上達には、継続あるのみ」と気持ちを切り替えていました。「学習を続けていれば、向上するけれどもマイナスはない」と自分に言い聞かせて勉強していました。

関:毎日英語に触れるというのは、具体的にどういう方法がありますか。

小井:BBCの英語ニュースを聞いたり英語教材を読み聞きしたりしていました。車の運転中など移動時間でも英語を聞きます。できるかぎり英語がある環境に身を置くようにしました。

日向:小井先生の実践はすばらしいです。難しい言葉を一生懸命暗記するのではなく、やさしいフレーズを毎日繰り返すことが効果的です。実際、生活における使用単語は、9割が2000語ほどで成立しているという研究報告2)があるくらいです。

関:英会話も空手の基本稽古と同じで、日々の積み重ねですね。

日向:一方で、医師が英会話につまずいてしまうのは、英語と日本語の言語観の違いを見過ごしがちだからではないでしょうか。He’s an oncologist.やXYZ is a pharmaceutical company.という描写にとどまる言い方より、He specializes in oncology.あるいはXYZ produces pharmaceutical products.のようにactorとactionが明示されるのが英語としては普通の姿です。会話でもactorとactionの視点は大事で、例えば、actorに交代のタイミングがあり、また、action自体にも序盤・中盤・終盤といった構成のあることを意識しないと普通の英語ユーザーの感覚とずれ、ギクシャクしてしまうことでしょう。
会話の中で「Basically」や「Actually」といった、会話の流れの合図を置いていくのも、英会話が上達するポイントです。ライティングでも言えることですが、英会話は始まりと終わりのあるひとつの構築物であり、こうした言葉の標識によって、相手に会話の流れを予告することができ、相手への気遣いになります。これは、会話での作法ないし手順ということでもあります。例えば、冒頭、プレゼンでの質疑応答の話が出ましたが、手順としては、まずは相手の話の中でのどの要素に関わる質問かを明示してから、具体的に質問します。よく見る光景ですが、そうでないと、演説になってしまいます。受ける方も相手の質問を自分の言葉で言いなおしたりしますが、それもコミュニケーションを成立させるためのひとつの手順と言えます。

小井:「英語を話すのは度胸、聞くのはセンス」と教えられました。実践で勇気を持って話し、相手の言いたいことを感じ取る、つまり聞くセンスを磨くことが大切だということです。先日、ソフトバンクの孫正義会長の英語プレゼンテーションを拝聴したところ、内容が非常に分かりやすいので説得力がありました。なぜかというと、平易な単語を選んでお話されていたからです。日向先生のお話で日常会話の単語数はそう多くないとありましたが、あの方のプレゼンテーションのように、仕事ができる人ほど、自分本位ではなく、相手に伝えることを優先しているのだと気付かされました。

医療現場で、英会話上達モチベーションがない人をどうするか

関:医療現場での英会話力の話に戻りますが、そもそも英会話上達に興味がない医師に関心を向けさせて、スキルアップを目指してもらうにはどうしたらよいのでしょうか。そのためには、私自身、私の医局でも回診時や治療方針の会議を英語にするなど、英語を使わざるをえない状況を作っていく必要があると感じています。

日向:日向清人先生普段は医局で英語を使う機会はありますか。

関:病院に外国人留学生がいる場合でしょうか。そのときは、会議は全て英語になりますし、仕事をしながら英語を話すことになります。ところが、外国人留学生が帰国すると、とたんに日本語だけの会話に戻ります。それでも医局内で英会話を継続させたいのですが、日本語を標準語としている人の集団ですから、少ししらけるムードがあるのも事実です。

日向:医師同士3人ぐらいで、毎日勉強会を行うのはいかがでしょう。複数人で、医療現場に特化した英会話スクリプトを自分たちで作って、医局で共有すれば、すばらしい財産になると思います。複数人で取り組むと、お互いの知識をカバーしながら、英会話力を磨くことができます。また、失敗したときの恥ずかしさも、そこまで強く感じません。この点、大事なのはプロとして通用する話し方をすることですから、Google のNgram Viewer(書籍を電子化したデータベース)あるいは話し言葉までカバーしている用例データベースのCOCAで、日ごろから、「どちらが多数派だろうか」「こんな言い方使われるのだろうか」と英語の実際を意識し続けることでしょう。

関:それも一つのアイデアですね。たいていの医師は常に論文を持ち歩いているため、英語を読む機会は多いのですが、話す・聞く機会が取れないのが悩みです。日向先生のアイデアは、そこを克服するきっかけになるかもしれません。個人的には、外国人の患者さんが多いクリニックで診療する機会をつくって、英語で患者さんを診ていました。こうした経験も大事だと思います。

日向:論文と言えば、学術分野で一般的に使われている言葉かどうかを確認できるGoogle Scholarもありますし、いい時代ですよね。

小井:小井泰三先生外国人留学生を招くことや、外国人を採用するというのはどうでしょうか。来日した外国人ゲストを、積極的に医局員の方にアテンドしてもらうのもいいかもしれません。

関:とにかく、英語が必要な状況を上司が設定するということですね。確かに、今後も海外からの留学生を積極的に迎えたいですし、医局の先生には国内外の学会発表における英語プレゼンテーションや質疑応答を自発的に行って欲しいです。海外の医師との情報交換やネットワークが、大きな財産になる可能性もあるからです。民間企業では昇進に英会話力が必須となっている会社もあります。将来的には、医師の世界でも似たような状況になるかもしれません。

医師として、世界を相手にするための英会話習得法

関:LCCEの読者の中には、おそらく英会話初級、中級、上級と、さまざまな方がいらっしゃいます。これから医師として世界で活躍していく方に向けて、アドバイスをいただけますか。

小井:まず自分の伝えたいことを、一つで良いので徹底的に研究して、英語で表現できるところまで準備します。私の場合なら、空手の「この技」、精神的な「この部分」などです。そして、実際に使ってみてはいかがでしょうか。失敗を恐れないで英語で発言していきましょう。「うまく伝わってない」と不安に思う場面があったとしても、情熱を持って「これだけは言いたい」という気持ちがあれば、絶対に伝わるはずですし、相手も理解しようとしてくれます。こうしたコミュニケーションを続けることで、自分の自信を育み、次へ、次へと、経験値を増やしていけばいいのではないでしょうか。

日向:大賛成です。医師の皆さんは、日本の英語教育を通じて、基本的な英会話力は身についているはずです。これに加えて、会話の段取りや、自然なやりとりを研究すると良いと思います。おすすめは、医療系の海外テレビドラマです。ネットから海外テレビドラマの台本をダウンロードすることもできます。問題意識と観察力があれば、英会話上達の解決方法は見つかるはずです。少しの工夫で、英会話がグンと上達される方が、大勢いらっしゃいます。

小井:指導的立場にある人は、指導対象の方々がうまくできたらどんどん褒めていきましょう。褒められると一層頑張ろうと思うものです。自分なんかはそうでした。
また、「相手に自分の気持ちを伝えたい」というレベルを突破したら、次は相手が知りたいことを探して、その表現形を出していく段階に行くと思います。「伝わらなかったらどうしよう」という不安な気持ちから、「相手が知りたいことは何か」と考えるステージに来るのです。これこそが、相手を思いやることです。英会話はコミュニケーションのためのツールですが、このツールを学ぶことで、相手に近づいていくことにつながるはずです。空手のやりとりでもそうですが、英語でも、「自分をどれだけ、相手にさらしていけるか」という心の部分も大事です。さらして、たとえショックを受けてもひるまない心が必要です。まだまだ、勉強の足りない私には、この企画も自分自身に鞭打つ良い機会になったと思います。

関:先生方、本日は貴重なご意見をいただき、誠にありがとうございました。
本日の座談会から、英会話が必要と思った時点で勉強を始めるのではなく、日頃から「この状況を、わかりやすい英語でどう表現するか」と考えるなど、空手の日々の基本稽古と同様、学習の継続が重要であることを痛感いたしました。また、英会話はコミュニケーションツールにすぎないと言いつつも、英語と日本語の言語観の違いに基づいて「会話の段取り」や「相手への思いやり」まで配慮する必要があることもよく理解できました。LCCEの読者の皆さんには、自らの研究や医療技術を世界に発信するためにも、失敗を恐れず「自分をさらけだして」どんどん外国人相手に発言することを今日から始めていただければと思います。

プロフィール

小井泰三先生

小井泰三

大学で経済を専攻したのち日商岩井(現、双日)で商社マンとして鉄鋼関連ビジネスを経験。新極真会の空手を世界に広めるために、指導、会議など、日夜橋渡しとして毎月海外出張を重ねる日々である。

日向清人先生

日向清人

元ケンブリッジ英検面接委員。元NHKラジオ「ビジネス英会話」講師。大学で実践英語を教える傍ら『ディクテーションで覚えるビジネス英語必須パターン123』(秀和システム)、『クイズでマスターするGSL単語2000』(テイエス企画、3月刊)等実用英語本を多数執筆。

  1. 平成27年総務省統計局、平成27年6月法務省在留外国人統計より計算
  2. Paul Nation. Learning Vocabulary in Another Language. Cambridge University Press, 2001.