LCCE Topic
2016年07月号vol.68
LCCE 特集:座談会

Precision Medicineの実現に向けた臨床試験デザイン1

山中竹春先生坂巻顕太郎先生
横浜市立大学大学院
医学研究科 
臨床統計学
坂巻 顕太郎 先生
山中 竹春 先生

はじめに

非小細胞肺癌を対象にバイオマーカーを活用した分子標的薬の臨床試験(BATTLE試験)[1]は、EGFR遺伝子変異に関する知見しかない中で始まりました。BATTLE試験ではアンブレラ試験(umbrella trial)とよばれる画期的なデザインが用いられています。一方、ALK融合遺伝子をはじめとしたいくつかのドライバー遺伝子変異に対する治療が確立した現在の背景から、進行肺扁平上皮癌を対象にした臨床試験(Lung-MAP試験)[2]が始まりました。Lung-MAP試験もアンブレラ試験と呼ばれますが、BATTLE試験とは異なるデザインです。2つの試験はいずれもPrecision Medicine[3]に根差しています。

Precision Medicineに関連するもう1つの試験デザインにバスケット試験(basket trial)があります。NCI-MATCH試験[4]は標的とする遺伝子変異を有する限り、どのタイプの癌種でも組み込めるバスケット試験です。
Precision Medicineに関連する臨床試験デザインは発展段階にあり、用語が整理されていません。実際、NCI-MATCH試験をアンブレラ試験という文献もあります[5]。以下では、Donald Berryによる分類[6]を参考に、プラットフォーム試験(platform trial)、アンブレラ試験、バスケット試験という3つの試験デザインを順に説明し、概念と用語を整理していきます。

プラットフォーム試験

プラットフォーム試験は、

“Platform trial evaluates many therapies in a particular disease or group of diseases. Therapies usually have different sponsors and may be combinations or sequences.” [6]

と定義されます。簡単にいえば、複数の薬剤を用いる臨床試験のことです。プラットフォーム試験は、「ある(サブ)タイプの患者にはどの治療(の組み合わせ)が最も良いか」という疑問に効率的に答えるための試験デザインであり[7]、いくつかのサブタイプを試験の対象とすることで効率化が得られます[6]。「肺癌における各サブタイプにはどの治療法が最も良いか」という疑問を検討するための、肺癌の複数のサブタイプを対象に、複数の薬剤を同時に検討する試験が一例です。このような観点から、後述するアンブレラ試験やバスケット試験は、プラットフォーム試験として分類することができます[8]。
プラットフォーム試験では、途中で試験治療群を削減したり、あるいは新たに加えたりするアダプティブデザインも利用可能で、そのようなデザインのプラットフォーム試験を特にスタンディング試験(standing trial)とよぶことがあります[6]。

アンブレラ試験

アンブレラ試験は、

“This term may be useless because it is used for very different designs by different researchers and reporters. I use it for platform trials (many therapies) that are indication finders for each therapy.”[6]

と評されるように、明確な定義がありません。
アンブレラ試験という用語は「ある癌種における複数のサブタイプに対していくつかの治療を同時に評価する試験」に対して使われています(図1, 2参照)。例えば、BATTLE型アンブレラ試験は図1のように表すことができます。BATTLE試験では薬剤の標的探索も試験の目的に含まれるため、事前に定めたバイオマーカーによるサブタイプ(Subtype 1, 2, …)ごとに薬剤(Drug A, B, …)がランダム化されるのが特徴です。

一方、Lung-MAP型アンブレラ試験は図2のように表されます。すでに標的が特定された薬剤を試験治療(Experimental Treatment)として用いるので、“サブタイプ(Subtype 1, 2, …)”ではなく、“標的(Target 1, 2, …)”としています。標的ごとに試験治療と標準治療をランダム化しているのが特徴です。
なお、Lung-MAP試験では、標的が特定できない対象(Unclassified)には抗PD-L1免疫チェックポイント阻害薬を割り当てることで、進行肺扁平上皮癌患者すべてを試験の対象としています。図2のような試験デザインによりアンブレラ試験を説明する文献もみられます[9]。

バスケット試験

バスケット試験は、

“Basket (or bucket) trial evaluates the effect of a particular targeted therapy on a particular genetic or molecular aberration across cancer organ types. Variant of indication finder but the therapy is not evaluated for its off-target effects.” [6]

と定義されます。バスケット試験では、「分子標的薬の標的である遺伝子変異をもっていれば、癌種にかかわらず組み入れが可能」なことが特徴です。ただし、遺伝子変異の多くは稀な頻度ですので、1つの分子標的薬(たとえば、アレクチニブ)が標的とする変異(ALK融合遺伝子)に対してのみ臨床試験を行うことは効率的ではありません。そのため、NCI-MATCH試験では複数の分子標的薬を同時に評価するべく、複数の標的を対象としたデザインになっており、効率化が試みられています(図3)。

図3のような試験デザインによりバスケット試験を説明する文献もみられます[8]。

なお、NCI-MATCH試験が対象とする標的(Target)と治療(Drug)の組み合わせでは、EGFR変異とHER2変異の2つの標的に対して、アファチニブという同一の薬剤が投与されます[10]。このような事情から、分子標的薬が何を標的とするかに注目して、薬剤を中心にバスケット試験を説明する文献もあります[11]。

おわりに

従来のバイオマーカーを考慮する臨床試験は、治療ごと、標的ごとに行われていたため、一部の患者集団しか臨床試験に組み入れることができず、非効率的でした。ここで紹介したデザインは効率化という観点で重要です。「効率化」には、組み入れ患者の増加だけではなく、インフラの節約なども含まれます。例えば、薬剤ごとの研究を副次試験とすることで、単一の「マスタープロトコル」[6] を利用できることがあります。遺伝子測定の面でも効率的です。

本トピックスでは、ランダム化や解析に関する解説は省略しており、Precision Medicineに関連した臨床試験の説明は網羅していません。アンブレラ試験やバスケット試験の実際の運営では、それらを理解しておくことも重要です。

用語解説

略語:

  • BATTLE: Biomarker-integrated Approaches of Targeted Therapy for Lung Cancer Elimination
  • Lung-MAP: Lung Cancer Master Protocol
  • NCI-MATCH: NCI-Molecular Analysis for Therapy Choice

参考文献:

  1. Kim ES, et al. Cancer Discov 2011; 1: 44-53.
  2. Herbst RS, et al. Clin Cancer Res 2015; 21: 1514-24.
  3. Collins FS, et al. N Engl J Med 2015; 372: 793-5.
  4. Do K, et al. Chin Clin Oncol. 2015; 4: 31.
  5. Mullard A. Nat Rev Drug Discov 2015; 14: 513-5.
  6. Berry DA. Mol Oncol 2015; 9: 951-9.
  7. Saville BR, Berry SM. Clin Trials 2016 Feb 17. [Epub ahead of print]
  8. Catenacci DV. Mol Oncol 2015; 9: 967-96.
  9. Renfro LA, et al. Cancer Treat Rev 2016; 43: 74-82.
  10. http://www.cancer.gov/about-cancer/treatment/clinical-trials/nci-supported/nci-match
  11. Menis J, et al. Eur Respir Rev 2014; 23: 367-78.