肺癌治療に関する情報誌:Lung Cancer Cutting Edge(LCCE)
2016年09月号vol.69
LCCE 特集:座談会

TNM-UICC第8版改訂と臨床現場への影響

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坪井:2017年1月から、国際対がん連合のTNM病期分類(TNM-UICC)が第8版へ改訂されます。今回の座談会ではこの動きを先取りしまして、TNM-UICC第8版が臨床現場でどのような意味を持つか、外科医、内科医、放射線科医の先生方とお話していければと思います。

TNM-UICC第8版の第一印象

坪井:今回の改訂に関して概要を図1から図3に示します。T:recommendationsのスライドでは、T因子を1センチ刻みで分けていることが分かります。M:proposed recommendationsのスライドでは、M因子の勧告案が示されています。またProposed Stage Groupingsのスライドでは、病期分類が非常に細かくなっています。TNM-UICC第8版に対する第一印象を教えてください。

高持:本来、TNM病期分類は患者さんの予後を予測するためのものではなく、治療方針を決定するために用いるものです。したがって臨床病期が病理病期よりもはるかに重要だと考えます。治療方針は局所治療(手術または放射線治療)か全身治療(内科治療)になりますが、特に手術は最も肺癌の治癒が期待できる治療ですので、その適応を決定するのに有用な臨床病期分類でなければ意味がありません。単に生存曲線がきれいに分かれるからと言って、T因子を1cmごとに刻むことは臨床的には全く意味がないと思います。手術方針に影響する腫瘍径を規定するとしたら、縮小手術の適否を判断するための2 cmまたは3 cmになると思います。

野中:僕も基本的には高持先生と同じ考えで、TNM-UICC第8版は、放射線治療の治療方針のdecision makingには、おそらく影響を与えないだろうと思っています。大きさの分類ですから、今後もしかしたら、N0の症例でⅠ期であれば、ⅠA、ⅠB、あるいはⅡ期も含まれるかもしれませんが、定位照射で線量の調整を図ることが起こり得るかもしれません。
ですが、現在あるTNM-UICC第7版でさえ、臨床現場で模索しながら活用している最中です。今見た限りですけれども、TNM-UICC第8版の活用は、まだ先になるのではと思います。加えてN因子がTNM-UICC第7版と同じですので、われわれ放射線医のスタンスとしては、基本的には変わらないだろうと考えています。

赤松:赤松弘朗先生私は内科なので、M因子を中心に見ますけれども、TNM-UICC第8版の中で、そもそも内科症例が10%ほどですので、このM1の分類を語ることが、なかなか難しいと思います。実際、TNM-UICC第8版で内科治療するのは、図3のステージングですとⅢB、ⅢC、ⅣA、ⅣBになるでしょう。ですが現在、内科治療は完全に組織型と遺伝子変異に基づく治療に分かれる流れになっています。この流れを考慮せずに、M1をこう細かく分けたり、ⅢCを作ったりという点に意義があるのか、少し疑問ではあります。

T・N・M因子に関する変更が臨床現場に影響するか

坪井:次は、T・N・M因子の変更が実臨床に与える影響について、因子ごとにお話を伺えればと思います。まずは高持先生、1cm刻みになったT因子について、さきほど縮小手術の話も出ていましたが、ご意見を聞かせてください。

高持:高持一矢先生縮小手術を考えるなら通常は2cm、腫瘍の局在や悪性度によっては3cmまでは可能と考えられますので、2cm、3cmの区切りはあってもいいと思います。それより上の大きさですと、隣接臓器浸潤の有無の方が重要だと思います。腫瘍径の大きな症例や他臓器浸潤の認められる症例ではリンパ節転移や遠隔転移の確率が高くなりますので、T因子よりもN因子やM因子の方が予後に大きく影響しますし、治療方針も大きく異なります。腫瘍径と同様に隣接臓器浸潤についても、単に生存曲線に有意差があるからと言って、浸潤臓器ごとに細かく分類する意義があるとは思えません。N0M0症例であれば、腫瘍径や浸潤臓器にかかわらず、技術的に完全切除は可能ですし、腫瘍学的にも切除の意義はあります。

坪井:坪井正博先生大きさだけの区分で良いということでしょうか。

高持:大きさと隣接臓器浸潤の有無というような、シンプルな分類にした方がいいと思います。

坪井:今後、TNM-UICC第8版を使って患者さんに説明するときに、たとえばa、bだったら縮小手術の話が出るかもしれないですね。次はN因子についてお聞きします。N因子はcNは変わらないですが、pNは細かく分けるようになります。野中先生、今後、放射線科のコミュニティの中で、pNを細かく分けることが治療方針の決定を左右する可能性はありますか。

野中:手術後の化学療法と化学放射線療法を比較した試験では、化学放射線療法のほうが明らかに成績は良いです。ただし、患者さんの体力を考えますと、手術後の化学放射線療法は厳しい面があるとは思います。

坪井:同時併用で治療できる人は限られていますよね。

野中:そうです。ですから、臨床試験はまだしも、将来的にこの指標を使うには、N2に対する術後照射をより検討して、エビデンスを積み重ねる必要があります。

坪井:続いてM因子について、pM1bを細かく分けることで、治療戦略に変更はあるでしょうか。TNM-UICC第8版のStagingの中で、実臨床に生かせる部分としたら、局所療法だと思っているのですが、がん局所の照射に対する有用性を示せば、M1bの治療に対して新たな治療指針ができるでしょうか。

野中:野中哲生先生たとえば治療ガイドラインの中で、ある程度、「脳転移がんだったら頭蓋内病変が抑えられている状態で、単発がんであれば局所療法をする」というものがあるとします。ですが、治療ガイドラインに相当するものが何もなく、TNM-UICC第8版だけを見て、原発巣のがんが治っていないのに「単発転移だからそこのみ局所治療をしよう」という考えが出てくるとしたら、定位照射は治療費が高額のため心配です。

坪井:M因子のsingle organのsingle metastasisに対する局所療法としては、プライマリの段階で何らかのコントロールがあることを一つの条件として使えるという考えですかね。

Staging全体を見渡して遺伝子情報を反映すべきか

坪井:TNM-UICC第8版のStaging全体を見てみましょう。図3の通り、領域としてⅠBが狭くなりました。ⅢCとⅣBの意義についてはいかがでしょうか。また、内科医の意見として、EGFR、ALK、K-rasなど遺伝子情報をStagingに反映させなくてよいのかという点が気になっています。現在の肺がん治療方針において、遺伝子変異の有無は大きな違いが出ます。ですから、たとえばⅣ期でa、b、cに分けるなら、遺伝子変異に着目したほうが治療しやすいかもしれません。

高持:ドライバー遺伝子変異を有する進行肺癌は、分子標的治療薬によって治療成績が大きく向上しました。最近では免疫チェックポイント阻害薬が新たな治療法として有効性が示されています。一部の症例では、術後再発やⅣ期の肺癌でも治癒が期待できる時代になったと思います。第8版になっても、未だに解剖学的な拡がりのみで分類しているTNM病期分類は時代遅れです。今後は新たなドライバー遺伝子変異や免疫治療の効果予測因子を明らかにして、腫瘍のbiologyを加味した病期分類に改良していくべきだと思います。

赤松:内科でデータベースを作って反映させると面白いかもしれません。今回データベースの中に内科症例があまり入っていないので、内科医としてアクションしていくべきだとは思います。

野中:放射線科医の間で、中枢型の肺がんの定位照射を行う際に、線量などについて注意するようガイドラインに書いたほうがいいのではという意見がありますので、今後、この新しいStagingが使えるかもしれません。ただ今回の改訂ではStagingが細かくなったので、覚えることが多くて大変というのが率直な感想です。

赤松:内科医である私たちは、N因子とM因子をほとんどメインにして治療方針を決めていきます。今回TNM-UICC第8版でM1b,cという新しい区分ができたので、そこがどう変化していくか興味があります。今後の動きを見守りたいです。

坪井:実臨床の現場から問題点など有益なメッセージを発信していただき、TNM-UICCがより有用になるよう考えてもらえるとありがたいと思います。本日はどうもありがとうございました。