LCCE Topic
2017年01月号vol.71
LCCE 特集:座談会

Precision Medicineの実現に向けた臨床試験デザイン2

山中竹春先生坂巻顕太郎先生
横浜市立大学大学院
医学研究科 
臨床統計学
坂巻 顕太郎 先生
山中 竹春 先生

はじめに

前回説明したようにPrecision Medicineの実現に向けた臨床試験のデザインには、特定の癌種における複数のサブタイプに対していくつかの治療を同時に評価するアンブレラ試験や、標的となる遺伝子異常をもつ集団に対する分子標的治療の効果を癌種によらずに評価するバスケット試験などがあります[1, 2]。これらはマスタープロトコルを用いるという点で効率的な試験デザインですが[1, 2, 3]、いくつかの課題や制約も指摘されています[2, 3]。アンブレラ試験では、特定のサブタイプの組み入れ症例数が少ない場合でも、そのサブタイプでの治療効果を適切に評価しなければならないという問題があります。バスケット試験では、癌種間での治療効果に違いがないかどうかを検討するための取り組みが必要となります。これらの課題に対処するため、ヒストリカルコントロールの利用や適応的ランダム化(adaptive randomization)、ベイズ流試験デザインを用いることなどが提案されています[2, 3]。以下では、アンブレラ試験やバスケット試験で用いられる治療効果の評価方法について概観していきます。

ヒストリカルコントロールの利用

標的となる遺伝子異常をもつサブグループで治療効果を評価するという状況を考えます。一般に、分子標的治療群(targeted therapy)と標準治療群(control)の人数が1:1となるように均等割付をすると、群間比較の検出力は最も高くなります(図1a)。しかし、関心のある分子標的治療群の情報を多く得ることを念頭におくと、分子標的治療群により多くの患者を割り当てる不均等割付(人数比2:1や3:1など)を用いることも検討に値します(図1b)。実際、マスタープロトコルを用いる試験であるNCI-MPACT試験では、2:1の不均等割付を行っています[4]。不均等割付は均等割付に比べると検出力が低くなるので、低下分を補うために、過去の臨床試験で得られた標準治療群の情報をヒストリカルデータとして用いることが考えられます(図1c)[3]。2種類の情報を組み合わせることにより、標準治療群の情報量(症例数やイベント数)が増え、検出力の上昇が見込めます。ヒストリカルコントロールの利用に関する方法論については武田らの論文を参考にしてください[5]。

適応的ランダム化の利用

アンブレラ試験において、適応的ランダム化を用いることがあります。たとえば、BATTLE試験[6]で用いられた適応的ランダム化では、はじめは各治療を均等に割り付けていきますが、中間解析以降は効果の高そうな治療により多くの患者が割り付けられるよう割付比率を変更していきます(図2)。限られた人数で実施される臨床試験において効果が期待される治療を選択する目的には有用な方法と考えられますが、中間解析時点での群間比較の推定精度や中間解析前後で患者背景が異なる場合の影響など、適応的ランダム化の実際の運用には注意が必要です [7]。

ベイズ流試験デザインの利用

バスケット試験では、中間解析時点における奏効率の成績から試験の継続を判断するためにSimonの2段階デザイン(two-stage design)[8]を用いることがあります。中間解析を行う場合、癌種別に奏効率を評価する方法(図3a)と、すべての癌種をまとめ1つの集団として奏効率を評価する方法(図3b)の2つが考えられます。BRAFのV600E変異に対するベムラフェニブの効果を評価した試験[9]では、図3aのように癌種ごとに奏効率を評価しています。一方、各癌種の人数が少ない場合には図3bのようにまとめて評価することは有用であるといえます。

図3の方法の問題は、癌種間の効果の一様性(奏効率に違いがないかどうか)に関する情報を利用していない点です。癌種間の奏効率が等しければ、図3aの方法は一様であるという情報を利用していないので損をしています。一方、癌種間の奏効率が異なっていれば、図3bは間違った判断をしている可能性があります。この問題に対処する方法の1つにベイズ推定を用いる方法があります[10, 11]。ベイズ推定では、癌種間の奏効率の一様性に関する情報を利用して癌種ごとの奏効率を推定します。ベイズ推定に基づく推定値(○)は、一様性の程度と各癌種の患者数に応じて、“癌種ごとに推定された奏効率”(×; 図3a)と“癌腫をまとめて推定された奏効率”(-; 図3b)のいずれかに近づいていきます(図4)。ベイズ推定した奏効率に基づいて試験の継続を判断するようにSimonの2段階デザインを拡張したベイズ流試験デザインを用いることによって、より正確な試験継続の判断を行なうことが可能になります。

おわりに

過去の臨床試験の情報が実際に共有されはじめていることから[3, 12]、今後は希少なサブグループや希少な癌種での治療開発にヒストリカルデータを用いる臨床試験が増えてくることが期待されます。適応的ランダム化をはじめとするベイズ流の試験デザインを用いた臨床試験も増えてきています。Precision Medicineの実現に向けた臨床試験デザインを実施するためには臨床医と生物統計家のさらなる協同が重要になります。

参考文献:

[1] http://www.cancertherapy.jp/lcce/2016/07/201607-vol68-topic.html
[2] Renfro LA, Sargent DJ. Annals of Oncology 2016 Oct 11. [Epub ahead of print]
[3] http://www.fda.gov/downloads/Drugs/NewsEvents/UCM423368.pdf
[4] Do K, et al. Chinese Clinical Oncology 2015; 4: 31.
[5] 武田健太朗, 他. 計量生物学 2015; 36: 25-50.
[6] Kim ES, et al. Cancer Discovery 2011; 1: 44-53.
[7] Brittain EH, Proschan MA. Clinical Trials 2016; 13: 566-7.
[8] Simon R. Controlled Clinical Trials 1989; 10: 1-10.
[9] Hyman DM, et al. New England Journal of Medicine 2015; 373: 726-36.
[10] Berry SM, et al. Clinical Trials 2013; 10: 720-34.
[11] Simon R, et al. Seminars in Oncology 2016; 43: 13-8.
[12] https://clinicalstudydatarequest.com