肺癌治療に関する情報誌:Lung Cancer Cutting Edge(LCCE)
2017年09月号vol.75
LCCE 特集:座談会

間質性肺炎合併肺癌への薬物療法を考える

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岡本:今回は、済生会熊本病院の一門 和哉先生、日本医科大学の峯岸 裕司先生、静岡県立静岡がんセンターの釼持 広知先生、九州大学病院の大坪 孝平先生の4名をお招きし、間質性肺炎合併肺癌のお話をお伺いします。

特発性間質性肺炎の病態と疫学

岡本:特発性間質性肺炎という疾患は間質性肺炎の中でどういう位置付けにあり、どういうプロセスで診断されているのか、またどのような経過となるのでしょうか。

一門原因不明の間質性肺炎群については2013年にATS、ERS、日本呼吸器学会、ラテンアメリカ呼吸器学会が共同でステートメントを出しており、主要3カテゴリーに分けられています。その主要カテゴリーのひとつChronic fibrosing IPは、特発性肺線維症(IPF)と線維性非特異性間質性肺炎(NSIP)と呼ばれる病態に分類されます。慢性線維化を来す間質性肺炎で原因不明のものの中では、IPFが最も頻度が高いと言われており、その病理組織像は通常型間質性肺炎(UIP)と呼ばれています。
実地臨床においては、外科的肺生検にて病理組織所見が得られる症例は少ないため、主に高分解能CT(HRCT)による画像診断を用いて、病理学的なUIPパターンかどうかということを判断します。また血清学的に膠原病や、他の全身病に伴う間質性肺炎がないかどうかをチェックします。あとは生活環境歴として粉塵への曝露歴も確認します。有機粉塵曝露による慢性過敏性肺炎等の疾患も同様の病態を示すことがありますので、詳しい問診を行って、特発性であることを除外していくという流れです。
他のさまざまな癌腫や血液疾患と比べても、IPFは極めて予後不良です。日本における大規模な疫学調査としては北海道studyが行われているのですが、2014年に発表されたデータによると診断からの生存中央値は35ヵ月となっています1)。死亡要因としては、急性増悪が40%を占めます。あと慢性経過の呼吸不全の悪化による死亡が24%、さらに肺癌の合併は特発性肺線維症では7~14倍と非常に高いと言われており、肺癌で亡くなる方が11%を占めるという状況です。

岡本:先生の臨床的な感覚として、精査した間質性肺炎の中で、特発性間質性肺炎はどの程度の割合になるのでしょうか。

一門明らかな原因が特定できない患者さんの割合は、おそらく6割くらいになるのではないでしょうか。

岡本:特発性間質性肺炎と分類される患者さんに対して、現状では急性増悪のリスク対応も含め、どのような形でケアが提供されるのでしょうか。また、最近の抗線維化薬の登場によって治療は変わってきたのでしょうか。

一門特発性間質性肺炎と診断して、治療を開始するかどうかは、診断時点での症状、肺機能障害の程度や6分間歩行試験での酸素化低下の有無によります。症状もなく、機能低下の乏しい症例は、3-4ヶ月毎に経過観察となる場合もあります。従来の間質性肺炎の治療は、ステロイドや免疫抑制剤を使った抗炎症治療が主流でした。これは炎症の持続が線維化を来すということがベースの考え方としてあったためなのですが、最近になって、実は上皮傷害が次第に高度になり、それが線維芽細胞を増生させ膠原線維が沈着し、さらに繰り返されることで進行性の線維化を来すという考え方が出てきました。これが、抗線維化薬が重要視されている理由です。
治療薬としては、2008年に最初に出た抗線維化薬がピルフェニドンという薬剤です。メタ解析で、ベースラインからの肺活量(VC)の低下抑制や無増悪生存期間の延長といった臨床的効果が確認されています2)。次に市販されたのがニンテダニブですが、こちらも海外で大規模臨床試験が行われ、やはり同様に、特に努力肺活量(FVC)の低下抑制と急性増悪の発症抑制という効果が確認されています。通常、IPFの患者さんは年間200ccのFVCの低下を来すということが分かっていますので、その低下を抑制することが主要な評価項目とみなされています。第II相、第III相の試験の統合解析では、プラセボで200cc以上のFVC低下率を半分の低下率に抑制することが示されています3)。急性増悪の発症抑制に関してもハザード比が0.53、また治療期間中の死亡リスクの抑制も同じくハザード比が0.57となり、リスクの抑制効果が確認できたということです。これらの抗線維化薬2剤をどう使い分けるかということについてもメタ解析が行われており、FVCの低下に関しては、両剤には顕著な差がないという結果が示されています4)。有害事象に関してはともに差がありません。全死亡については、ニンテダニブで、プラセボとの有意差が確認され、また急性増悪予防に関しては、ニンテダニブのみで有意な効果が確認できているという状況です。

岡本:IPFと診断された患者さんの多くが、これらの抗線維化薬で治療されているのでしょうか。

一門抗線維化薬の適応や導入タイミングについては、呼吸器内科の中でもまだ十分には浸透していないようですので、そこが今後の課題と思います。

岡本:日本で実際に、肺癌症例のどの程度の割合で間質性肺炎を合併しているのかについて疫学的なデータは存在するのでしょうか。

峯岸:日本呼吸器外科学会から報告されている4万例を超える肺癌切除症例の検討では、約6%に何らかの慢性の間質性肺炎を認めたと報告されています。また、手術症例の解析では肺癌切除標本中にUIPの所見が認められる割合は3%から17%と報告されています。ただし、これらの報告にある間質性肺炎像やUIP所見に関しては、原因が特発性なのか、膠原病やアスベストのような環境曝露など他の要因が関係しているのか、読み取ることはできません。
逆にIPFにおける肺癌という視点で見てみると、肺癌の生涯累積発症率は20%前後との報告が多く見られます。また、当然のことながら観察期間が延びるほど、肺癌の発症率は増加し、IPFの患者さんを10年間観察したところ、半数以上に肺癌が発症したとの報告もあります5)。前向きの検討では、英国でコホート研究が行われています。IPFのない患者さんと比較して、IPFの患者さんは喫煙で調整後も相対リスクが8.25となっており、IPFそのものが肺癌発症の独立した危険因子だと考えられています6)

間質性肺炎を合併した進行非小細胞肺癌に対する実地臨床

岡本:間質性肺炎を合併した進行非小細胞肺癌の患者さんで、パフォーマンスステータス(PS)が保たれているような場合、肺癌に対する治療はどのように考えておられますか。予後規定因子はどちらの疾患になるのでしょうか。

峯岸:間質性肺炎を合併した肺癌患者さんの治療にあたり、最も注意を払っているのは間質性肺炎の急性増悪です。急性増悪は致死的な合併症であり、救命できたとしても患者さんのQOLを著しく低下させてしまいます。この急性増悪は、化学療法だけでなく、手術や放射線治療といったがん治療により、しばしば引き起こされます。ですから、患者さんには、治療に伴う危険性を十分に情報提供しなければなりません。その上で手術可能な病期であれば、間質性肺炎非合併肺癌患者さんと同様に手術をお勧めすることになります。進行期の場合には、通常は化学療法が適応となるわけですが、根治を期待することは難しく、治療効果も保証されていないため、個々の患者さんの急性増悪のリスクを評価した上で慎重に治療適応を判断しています。
当院では、間質性肺炎合併肺癌の患者さんが来られた場合には、進行期であれば、まず間質性肺炎の病勢を1ヵ月程度観察して、間質性肺炎活動性を評価して、予後を規定するのが肺癌であるのか、間質性肺炎であるのかを判断しています。

岡本:間質性肺炎を合併したIV期進行非小細胞肺癌の患者さんの場合、間質性肺炎の鑑別診断はどの程度行われているのでしょうか。

峯岸:峯岸 裕司先生どうしても肺癌の確定診断が優先されるために、胸腔鏡下肺生検(VATS)をはじめ、間質性肺炎に関する組織診断は残念ながら多くの症例でできていません。HRCTは間質性肺炎が疑われる全症例に実施するようにしています。膠原病や吸入曝露歴などの基本的な除外項目に関しても十分に精査するようにしています。間質性肺炎の病態により急性増悪の頻度が異なるため、今後のがん治療のリスクを評価する上で間質性肺炎の鑑別は重要です。

岡本:一門先生のご意見はいかがですか。

一門まずHRCT所見を用いて、UIPパターンとnon-UIPパターンを区別する必要はあると思います。その点と、峯岸先生もおっしゃったように、血清学的にできる検査や問診で聴取できるものに関しては、ある程度は除外できると思いますので、まずそれをもって、間質性肺炎の原因に関しては限定した情報の中でも判断せざるを得ないかと思います。薬物療法については、やはり急性増悪のリスクがありますし、本年発行された「特発性肺線維症の治療ガイドライン2017」でも、化学療法を行うことを提案するが、少数の患者にはこの治療法が合理的な選択肢でない可能性がある(推奨度・エビデンスの質:2D)と記載されています。

岡本:静岡がんセンターはがんの専門施設ですが、間質性肺炎合併肺癌症例において間質性肺炎の病型分類および肺癌に対する薬物療法はどのようにされていますか?

釼持当院の2014年のデータでは、肺癌患者さん535人のうち、間質性肺疾患を合併している患者さんが約10%を占めています。当院は初回治療前に全例HRCTを撮って、間質性肺炎の有無について評価を行っています。呼吸器専門医の先生方と比べると不十分な部分があるかもしれないのですが、以前に画像診断科とともにレトロスペクティブの解析をしており、UIPのパターンの場合に間質性肺疾患の増悪例が多いということを報告しました7)。これを受けて、蜂巣肺や肺の容量低下、もしくは牽引性気管支拡張などの所見がある場合には、間質性肺疾患の増悪に注意しながら治療を行っています。抗癌剤治療に関しては、初回治療でも10%程度急性増悪のリスクがあることはお伝えした上で、患者さんと相談をするようにしています。根治目的ではなく緩和治療、症状コントロールを目的とした化学療法ですので、間質性肺疾患の増悪のリスクをきちんと伝えるようにしています。

岡本:UIPパターンとnon-UIPパターンでは抗癌剤治療による急性増悪の割合に差は出ているのでしょうか。

釼持当院で行った小細胞癌も入れた肺癌患者のレトロスペクティブ解析で、全治療期間において、UIPパターンで30%、non-UIPだと8%で間質性肺疾患の増悪を認めており、有意な差があります。ただ、間質性肺疾患の程度差も大きく、わずかな間質陰影を認めるものから、蜂巣肺を広範囲に認めるようなものも含まれていることが、本研究の限界ではないかと思います。

岡本:IPFとIPF以外の間質性肺炎では、抗癌剤で治療したときの急性増悪発症率に差がありそうということですが、峯岸先生のお持ちのデータではいかがでしょうか。

峯岸:当院の小細胞肺癌と非小細胞肺癌の前向き試験に登録された35例について検討したところ、non-IPFに対してIPFは、オッズ比で約3倍急性増悪のリスクが高い結果でした。症例数が少なく統計学的有意差はありませんが、複数の報告で同様の傾向が見られており、IPFは危険因子である可能性が高いと思われます。
ただ、IPFの診断は必ずしも画一的ではありません。ガイドラインによればHRCTで明瞭な蜂巣肺がないpossible UIPタイプに関してはVATSを行うことになっており、組織診断ができない場合には、分類不能のIIPsと診断することになっています。間質性肺炎合併肺癌は、組織生検ができていないpossible UIPタイプもIPFとして扱うなど、施設によってIPFの診断にばらつきがあるのではないかと思います。

岡本:UIPパターン肺癌患者さんで急性増悪が起こった患者さんで、そのために亡くなるのはどのくらいでしょうか。

釼持当院の検討では、間質性肺疾患の増悪が起こった患者さんのうちの約30%が死亡されていました。残りの70%は軽快はしていますが、PSが落ちてしまった時には、その後の治療は厳しくなります。

岡本:一門先生、IPFの一般的な急性増悪の救命率と比較するといかがでしょうか。

一門一門 和哉先生2006年のデータでは、生存期間中央値(MST)が1.67ヵ月で 、最近の2010年以降では、初回の急性増悪の院内死亡率は大体50~60%前後という状況です。これは釼持先生の出された急性増悪死亡率30%と比較すると高い傾向です。ただ、1990年代の時点では死亡率70%台でしたので、初回の急性増悪は改善する例が若干増えています。一方、ここ10年間でMSTに関してはほとんど変わっておらず、その後の経過で最終的に予後は延びないという状況があります。

岡本:肺癌患者さんで急性増悪を起こしてしまうと、救命できたとしてもQOLの低下が免れないということですね。UIPパターンでIPFが想定されるような患者さんに対して抗癌剤治療をお話するときに、釼持先生のデータによれば、3割程度の方に急性増悪が発症し、その場合は極めて命の危険が高い状況だと説明することになるのですが、抗癌剤治療の実施に関して前向きに説明するのかニュートラルなのか、それともお勧めはしないという形なのか、実地臨床ではいかがですか。

釼持基本的には緩和ケアと抗癌剤治療+緩和ケアという2つの選択肢について話をします。とくにUIPパターンの間質性肺疾患を合併している場合にはリスクを十分にお話するようにしています。

岡本:峯岸先生の施設では、IPFが想定されるような画像所見で1ヵ月程度変化がなく、安定している場合はどのような形でお話されるのでしょうか。

峯岸:当院の場合は他の施設からの紹介患者さんが多く、積極的な治療を希望される方がほとんどです。当院のデータを示した上で、致死的な有害事象である急性増悪の危険性が間質性肺炎を合併しない場合と比較して高いこと、急性増悪が発症してしまった場合には回復できたとしてもQOLが低下してしまう可能性があることを説明し、患者さん個々の危険因子を考慮して緩和治療も含めた治療選択肢を提案します。間質性肺炎が予後を規定している場合や急性増悪のリスクが非常に高い場合、超高齢者では化学療法を回避することもありますが、IPFというだけで治療に制限をかけるということはありません。

岡本:一門先生は間質性肺炎の専門家でもいらっしゃいますが、間質性肺炎合併肺癌症例に対する抗癌剤治療に関してはどういう立ち位置でお話されるのですか。

一門もともとの間質性肺炎の状況が大きいと思います。診断時のFVCが低値の進行例では、それだけ急性増悪のリスクが高くなります。肺機能上FVC、DLCO結果も見た上で、間質性肺炎自体の重症度を踏まえてリスクをお話するという形になります。

岡本:間質性肺炎合併の肺癌の患者さんに対しては、画像所見に基づきIPFが想定される間質性肺炎なのかどうか、また重症度に応じて急性増悪の発症頻度が変わるので、それを踏まえて患者さんにも正確に説明しようということですね。治療レジメンについてはいかがでしょうか。

釼持当院ではカルボプラチン+パクリタキセル、もしくは神奈川県立循環器呼吸器病センターからデータが出ているカルボプラチン+TS-1のいずれかのレジメンを、副作用のプロファイルに基づいて説明しています。

峯岸:当院では、我々が前向き試験で報告したカルボプラチン+weeklyパクリタキセル併用療法を第一選択にしています。Weekly投与を選択している理由は、一括投与では高度の好中球減少の頻度が高くなりがちですが、weeklyにすることによって、骨髄抑制や発熱性好中球減少症の頻度を抑えることができます。免疫抑制状態で呼吸器感染症を併発した場合、急性増悪との鑑別が問題になりますが、急性増悪の可能性が否定できない場合にはその後の化学療法の継続が難しくなってしまいます。パクリタキセルが使いにくい場合には、カルボプラチン+TS-1療法が次の選択肢となります。現在、カルボプラチン+weeklyパクリタキセル+ベバシズマブ併用療法を用いた臨床試験を行っており、適格基準に該当する患者さんには提案しています。

岡本:カルボプラチン+パクリタキセルの一括投与の場合は、前投薬としてステロイドが入るのですが、IPFに対する影響はあるのでしょうか。

峯岸:ステロイドがIPFの急性増悪を抑制するのか、逆に惹起してしまうのかに関しては、十分なデータがないと思います。

岡本:免疫チェックポイント阻害剤にも間質性肺炎、薬剤性肺炎のリスクが指摘されています。間質性肺炎を伴う患者さんに対する免疫チェックポイント阻害剤の使用に関して、現状はどのような状況なのでしょうか。

釼持当院では間質性肺疾患を合併していると判断した場合には、基本的に免疫チェックポイント阻害剤を使っておりません。非常に難しいのは、HRCTでわずかに見られる陰影をどう診断するかということで悩みながら診療をしています。

岡本:その線引きについて、実地医療では間質性肺炎を専門とする医師と肺癌を多く診ている医師との間にギャップはないのでしょうか。

峯岸:それは否定できないと思います。当院では、肺癌を専門にする医師は、線維化が非常に微細であったり、片側性の場合には、疾患としての間質性肺炎ではなく、陳旧性炎症性変化や喫煙関連の間質性変化と捉え、治療に積極的な傾向はあるように思います。一方でびまん性肺疾患を専門とする先生を中心に治療を抑制する側の意見もあります。しかし、同じ肺癌を専門とする医師の間でもギャップはあって、危険性が増すことを理由に化学療法に消極的な医師も存在すると思います。

岡本:微細な間質性陰影が見られるときに、肺癌を専門とする医師の判断は実際に甘いと考えられるのでしょうか。肺癌に対する治療ベネフィットが期待できる場合にはどのような考え方があるのでしょうか。

一門当科でのカンファレンスでも、その点は常に議論になるポイントで、それぞれが意見を持ち寄り、最終的にはリスクを十分説明した上で、ということに落ち着くのではと思います。微細な変化が本当に進行性のものなのか、いわゆる間質性変化だけで進行性の疾患ではないのかは、そのワンポイントではどうしても判断できないのです。ですので、その時点では、癌の治療を優先してリスクを十分説明した上で、そういった薬剤も使う、治療も行うという方向になることが多いだろうと思います。

間質性肺炎合併肺癌の臨床試験

岡本:次に間質性肺炎合併肺癌の臨床試験についてお話をお伺いしたいと思います。まず、カルボプラチンとnab-パクリタキセルを使った前向き試験についてご紹介いただけるでしょうか。

釼持釼持 広知先生私たちは神奈川県立がんセンターの加藤先生を研究代表者として、間質性肺疾患合併の非小細胞肺癌を対象に、カルボプラチン+nab-パクリタキセル併用療法の単アームの第II相試験を行っています。本試験の間質性肺疾患の定義は、2013年に提唱されたChronic fibrosing IPとしています8)。化学放射線療法ができないようなIII期の方も含め、III―IV期でPSが0~1の20歳以上の患者さんを対象に、カルボプラチン(AUC=6, day1)+nab-パクリタキセル(100mg/m2, day1, 8, 15)の投与を行います。
間質性肺疾患合併の非小細胞肺癌に対するカルボプラチン+nab-パクリタキセルの安全性を評価するのが目的で、プロトコール治療終了後28日までの間質性肺疾患の無増悪割合をプライマリーエンドポイントとしています。9施設が参加しており、本試験は現時点では最も大規模な間質性肺疾患合併肺癌に対する単群試験です。2014年6月に登録を開始し、2016年12月に、予定症例登録数90例の症例登録が終了しまして、現在は経過観察中です。来年には安全性についての報告ができると考えています。

岡本:間質性肺炎合併肺癌を対象とした前向き試験にはさまざまな難しい点があるかと思います。例えばこれまでの話ではIPFと想定される患者さんの割合によっても急性増悪の頻度が変わってくるかと思うのですが、その点についてはどのような考えで試験はデザインされているのでしょうか。

釼持ご指摘のとおりIPFの患者の割合によって、増悪の割合が異なる可能性がありますが、腫瘍内科医がどの程度の精度でIPFの診断が可能かについてのデータもありません。このため、本試験では当院のデータとこれまで報告された間質性肺疾患合併肺癌のデータを基に閾値を設定しています。具体的には、間質性肺疾患の無増悪の割合の閾値を80%、期待値を90%と設定しており、α=0.05として90%信頼区間の下限で、間質性肺疾患が無増悪であった割合が80%以上であった場合にポジティブになるような試験として行っています。5人に1人が増悪するような場合には、安全性が示されないという判断になります。

岡本:岡本 勇先生峯岸先生も世界に先駆けて前向き試験を行っておられますが、試験デザインについてはどのようにお考えでしょうか。

峯岸:臨床試験をデザインするにあたって、まず、対象となる間質性肺炎の範囲をどうするのか。対象をIPFに絞れば比較的精度の高い研究となりますが、症例集積が難しくなります。また、実臨床での対象とは異なるとの批判もあるかもしれません。一方で対象をHRCT上、間質性変化を認める症例にまで拡大すると急性増悪リスクがそれぞれ異なる間質性肺疾患が含まれ、不均一な集団となり、この混成割合により急性増悪頻度が異なる結果となります。理想を言えば、最もリスクが高く、なるべく均一な患者集団、つまりIPFで臨床試験を実施するのが望ましいと思います。
さらには、治療関連急性増悪の定義をどうするのか。IPFの患者さんでは、1年あたり5-19%に急性増悪を発症するとされており、IPF以外の間質性肺炎でも急性増悪は確認されています。このため、間質性肺炎合併肺癌では、がん治療を行わなくても一定の割合で急性増悪が発症します。しかしながら、治療に関連した急性増悪と治療とは無関係に発症した急性増悪を区別することは不可能です。このため、釼持先生らの試験もそうですが、多くの検討では化学療法から急性増悪が発症時点までの期間で治療関連性を定義しています。ただし、これは2つの治療法を比較するランダム化試験であれば解決できる問題と思います。

岡本:私が気になっているのは、日本ではこのように前向き試験が行われているのに、海外からはこうした報告がないということです。世界的には間質性肺炎合併肺癌の問題はどのように捉えられているのでしょうか。

峯岸:IPFの急性増悪という概念自体が日本から発信されています。欧米において、急性増悪の概念が認識されるようになったのは最近です。この背景には急性増悪が日本人で高頻度であり、欧米人では稀であるという民族差があるのではないかと思います。これはゲフィチニブによる致死的な肺障害が海外と比べて日本人で約10倍も高頻度であったということと無関係ではないと考えています。このため、欧米では化学療法に伴う間質性肺炎の急性増悪を経験している医師が少なく、実際、問題となっていない可能性もあります。
私が初めて特発性間質性肺炎を合併した肺癌症例の後方視的検討を投稿した際には、欧米の雑誌からは次々とリジェクトされてしまいました。このときに、欧米と日本で間質性肺炎の急性増悪、さらには間質性肺炎合併肺癌における化学療法に対する危機意識には随分格差があると感じました。

一門海外でも間質性肺炎に肺癌の合併が多いということは、論文でも発表されているのですが、それに対する化学療法をしたときにどうかという報告はあまり見かけないです。間質性肺炎に肺癌が合併したとき、手術以外の治療はやらないという考えがあるのかについては、よく分からない部分ではあります。

峯岸:日本では呼吸器内科医が肺癌の化学療法を行うことがほとんどですが、欧米では、間質性肺炎は呼吸器内科医が診療しています。いざ肺癌を合併した場合、化学療法を行うのは腫瘍内科医であり、その腫瘍内科医は間質性肺炎に関心を払うことなく化学療法を行っている可能性もあります。また、化学療法中に呼吸状態が悪くなっても、癌性リンパ管症や通常の薬剤性肺障害と認識し、間質性肺炎と関連づけて考えていない可能性もあります。

釼持フランスの先生と話す機会があり、間質性肺疾患合併肺癌の話をしたら、実は欧州でも同じような試験を計画しようと思っていると言っていましたので、ヨーロッパではこの問題が認識されている可能性はあります。

岡本:私たちはIPFを合併した進行非小細胞肺癌に対する臨床試験(J-SONIC試験)9)を、九州大学の大坪先生を中心に、一門先生、峯岸先生、釼持先生のご協力の下、計画しています。大坪先生、御紹介頂けますか。

大坪大坪 孝平先生IPFを合併する未治療進行非小細胞肺癌の患者さんを対象としたランダム化第II相試験を開始しています(図)。カルボプラチン+nab-パクリタキセル群と、カルボプラチン+nab-パクリタキセルに抗線維化薬であるニンテダニブを併用する群に1:1でランダマイズします。両群ともに化学療法を3週サイクルで計4サイクル行い、ニンテダニブ群では、化学療法開始日よりニンテダニブ150mg1日2回の内服を開始し、化学療法終了後も内服を継続するという試験デザインです。
プライマリーエンドポイントはIPF急性増悪までの期間としています。INPULSIS試験でニンテダニブがIPFの急性増悪発現までの期間を延長することが示されており、それに倣って本試験でも同様のプライマリーエンドポイントを設定しました。担当医により急性増悪が疑われた症例については、中央判定により急性増悪の有無を判定することにしています。

岡本:J-SONIC試験をデザインする上で、苦労された点や工夫された点は何ですか。

大坪ひとつはベースとなる化学療法レジメンをどうするかという点です。平成21年のびまん性肺疾患に関する調査研究班からの報告や、峯岸先生らが実施されたカルボプラチンとweeklyパクリタキセル併用の前向き試験などの結果から、間質性肺炎を合併した非小細胞肺癌に対する化学療法として、カルボプラチンとパクリタキセルの併用療法が主に選択されてきました。今回選択したカルボプラチンとnab-パクリタキセルの併用療法ですが、CA031試験10)の結果から進行非小細胞肺癌に対する良好なデータが得られていることや、投与スケジュールが峯岸先生の前向き試験と類似していること、間質性肺疾患合併非小細胞肺癌に対するカルボプラチン+nab-パクリタキセルの第II相試験が本邦で既に進行中であったこと、nab-パクリタキセルのほうが従来のパクリタキセルよりも過敏反応のリスクが低いことなどから、こちらを本試験のべースとなる化学療法に選択しました。
もうひとつは、参加施設数をどのように確保するかという点です。単施設、あるいは単一の臨床試験グループでは集積が難しい疾患群ですので、オールジャパンで取り組む必要があります。そこで本試験は、和歌山県立医科大学の山本信之先生を中心とする「山本小班」を母体として、日本の主要9つの臨床試験グループが共同で行うインターグループ試験として実施することにしました。既に全国の120を超える施設にご参加頂いており、5月中旬から症例の登録を開始しています。

岡本:J-SONIC試験はニンテダニブという抗線維化剤を用いている点、比較試験であるという点、さらに、全国展開して120施設以上が参加予定であるという点で、これまでの間質性肺炎合併肺癌に対する前向き臨床試験とは異なると認識しています。釼持先生にはWJOGの代表者、それから峯岸先生にはNEJSGおよびTCOGの代表者、そして一門先生には急性増悪判定委員会のメンバーとして試験に関わっていただいています。本試験に期待されることなどお聞かせいただけるでしょうか。

釼持期待する点としては、やはりIPF合併肺癌に対する世界で初めてのランダム化試験ということです。今まで全く開発が進んでいなかった、もしくは臨床試験から除外されてきた患者さんに、より有効な薬剤を提供することができる可能性があるという意味でも、非常に期待をしています。
一方で、やはり多くの施設が参加するということで、間質性肺疾患の診断というところが試験のクオリティーを決めるポイントになるのではないかと思います。各施設で、適格基準であるIPF合併肺癌が正しく診断され、登録がスムーズに進むことを期待しています。

岡本:対照群ではプロトコール治療の間、ニンテダニブが投与できないということになっているのですが、この点についてはどのように考えられているのでしょうか。

大坪IPFを合併した進行非小細胞肺癌の患者さんに対する化学療法に、ニンテダニブを併用した場合の「IPFに関する」有効性は、まだ分かっていません。本試験ではその点を明らかにしたいと考えています。

一門診断時点のIPF自体の重症度によっては、治療も必要な症例も当然出てくるだろうと思われますので、そこは確かに判断が難しい問題ではあると思います。

峯岸:我々の施設ではIPF合併進行肺癌に対しては、IPFの治療はほとんど導入していません。その理由としては、進行期の場合、肺癌が予後規定因子になることが多く、これまでの報告を見ても予後が1年を超えるようなことが少ないためです。一門先生からもご紹介のあったTOMORROW試験とINPULSIS試験の統合解析でも、死亡リスクは1年を超えるぐらいにならないと差が現れ難い印象です。また、ニンテダニブ自体の有害事象も考えなければいけません。このことから、今の段階ではニンテダニブを投与しない対照群を設定することは倫理的に問題ないだろうと思います。

大坪この試験に関しては、IPFの活動性が非常に高い、あるいは進行しているような症例は、適格基準を満たさないことになっています。FVC、DLCOが低く、年齢・性別も含めたGAPモデル11)のスコアが高い症例は、非常に死亡リスクが高いということを考慮しています。

岡本:それは、ニンテダニブの投与がより薦められる患者さんを除外しているということなのでしょうか。つまり、急性増悪のリスクが高い患者さんは、危険性が高いから外そうということなのか、あるいは今の議論のように、化学療法群に入る患者さんにニンテダニブを投与しないことは許容されるだろうという話なのか、どちらなのでしょう。

大坪どちらのリスクがより高いのかということを重視すべきであり、肺癌よりもIPFのほうが予後を規定する可能性が高い患者さんはそもそも化学療法の適応となりにくいことから、本試験の対象から除外しています。

岡本:参加施設についてはいかがでしょうか。今回は癌の臨床試験をやってきた施設が多数参加しています。登録時の画像の中央判定は行わないことになっているので、どの程度IPFの症例が集まるのかという懸念もあるのですが。

一門この試験に参加したいと考えるというところは、間質性肺炎の意識もある程度高い施設だと思いますし、中央判定も行いますのでこの判断で差し支えないと思います。

岡本:峯岸先生から本試験についてコメントなどお有りでしょうか。

峯岸:J-SONIC試験は、本病態に対する初のランダム化試験であり、ニンテダニブによる急性増悪の抑制効果が評価できるデザインだと思います。これまでの単群試験では、比較の対照となるBSCのみの場合の急性増悪発症割合や予後についてのデータがないため、急性増悪発症割合や生存期間をどの程度までなら許容されるのか、エンドポイントの評価が困難でした。
懸念されるのは、急性増悪が起きてしまったときの診療体制に施設間で格差がないのか、ということです。急性増悪は致死的な病態である上に感染症や心不全などとの鑑別が必ずしも容易ではありません。普段、IPFを診療する機会の少ない施設や休日・夜間に呼吸器内科医が不在になる施設もあると思います。安全に試験を行うためには急性増悪に対して迅速かつ適切な初期対応ができる体制を整える必要があるかもしれません。

大坪この点はご指摘の通りで、肺癌診療のアクティビティの高い施設からも、IPFの診断や急性増悪が起きたときの対応が困難であることを理由に参加を見合わせたいという連絡を頂いています。そのような施設については、近隣のJ-SONICに参加されている施設にご紹介いただくようお願いしています。ご参加いただく施設に関しても、びまん性疾患を専門にされている先生がおられれば、そういった先生方のご協力を得ながら診療していただくように、呼び掛けていきたいと考えています。

岡本:一門先生、この点についてスタッフの少ないような病院で急性増悪が疑われたときに実地の現場で何をすべきなのかというところと、あと、先生には無理を言って急性増悪判定を最終的に、客観的に第三者の立場でしていただく立場でお願いしているのですが、どういう情報を確実に取ってもらいたいかについてお教えください。

一門急性増悪時の治療に関しては、第3版に改訂された「特発性間質性肺炎診断と治療の手引き」に準じた治療を各施設で最低限やっていただく必要はあると思います。治験中の薬剤の使用などは望めませんので、まず手引きに沿った治療をやっていただくという形になります。
急性増悪であるかどうかの判断に重要なのは、まず画像は最低限、HRCTを含めたものが必要です。あとは血清マーカーとして、特にLDH、CRP、KL-6などを踏まえて、最終的に判断することになります。あと、もちろん酸素化です。酸素化に関しても、どの程度の酸素が必要な状況なのかという情報が必要です。

岡本:最後に、びまん性肺疾患を専門領域とする先生方から見てJ-SONIC試験というのはどのように見られているのでしょうか。

一門結果を期待されている試験だと思います。間質性肺炎を診る医者側にとっても、肺癌の合併というのは避けられない切実な問題ですし、かつ急性増悪が治療によって起こるかどうかは、肺癌と同様に生命予後を左右する大きな問題です。それが今回の試験によって方向付けがかなり明確になることへの期待は大きいです。

岡本:今回は間質性肺炎合併肺癌についてさまざまな見地から情報交換ができ、また今後の研究への貴重な洞察も伺うことができました。本日は誠にありがとうございました。

1) Am J Respir Crit Care Med. 2014 Oct 1;190(7):773-9.
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