肺癌治療に関する情報誌:Lung Cancer Cutting Edge(LCCE)
2018年03月号vol.78
LCCE 特集:座談会

どうすればたくさんの論文を書けるのか?
アクセプトされる論文作成術

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関:日本の臨床研究の課題として、長らく論文数が伸び悩んでいることが指摘されています。本日は、国際医療福祉大学 医学部長で日本医学雑誌編集者会議(JAMJE)の委員長も務める北村聖先生、臨床研究に取り組む若手臨床医代表として帝京大学医学部 内科学講座 腫瘍内科の太田修二先生、論文執筆サポートに従事され、研究倫理にも詳しい株式会社アスカコーポレーションの橘尚子氏も加わり、論文執筆を効果的に行うための方策を考えます。

個人からチームによる分業制へ

北村:日本の研究施設から発表される臨床研究の論文が少ないというのは事実です。2012年の調査1)では、基礎医学系のトップジャーナルであるNature Medicine、Cell、The Journal of Experimental Medicineに掲載された日本の論文数は世界で第4位でした。しかし、臨床研究のトップジャーナル、The New England Journal of Medicine、JAMA、The Lancetへの掲載数は第25位に留まっています。オーストリアやブラジルといった国々と同水準です。
少ない理由として、医局や教育のシステムが関係しています。日本では多くの医師は博士課程で研究を行うのですが、大学院の数年だけでデータが出せる病理や免疫などの基礎研究になります。博士論文を出せばその後のキャリアは順調に進んでいくので、そこで研究は終わります。症例報告や少数例の研究はできても、エビデンスになる5年~10年かかる臨床研究を継続して行うことが許されないという背景があります。

関:基礎の研究は、決まった期間内に確実に論文になる算段がつきやすいという部分は確かにあります。しかし臨床研究になると、若い先生たちは臨床をしながら論文を書くことにジレンマを抱えていると思います。昼間は患者さんを診察して、論文は睡眠時間を削って書くものだという風潮も根強く残っています。

北村:昭和の時代は、紙ベースの症例データにアクセスできるのは患者さんを診ている担当医本人しかいなかったので、徹夜してでもやらなければいけないという状況はありました。しかし、現在はそうではありません。臨床研究は大規模化していますから、個人の努力で賄うのは不可能です。臨床のトップジャーナルに掲載されている論文では、症例は少なくとも数百例、多施設共同研究なので著者は20人以上にのぼる場合もあります。

関:多施設共同研究は難しくとも、自分の単一施設で症例を集めて後向き研究を行い、論文を数多く書くことは必要だと思います。それが日本ではうまくいっていないのが現実です。論文の出版が盛んな海外では日本とどのような違いがあるのでしょうか。

北村:海外では論文を書くときに、役割分担が非常にはっきりしています。アイデアを出す人、手術する人、倫理委員会の手続きをする人、研究計画書を書く人、資金を調達する人、さらにデータを集めて整理する人、統計解析を行う人、そして論文を執筆する人。これらの役割が分業化されています。

太田 修二 先生太田:日本の現状として、これらのプロセスをすべて医師が担っているので、とても論文を量産できる環境にはないと感じます。最近は個人情報やゲノムの取扱いなど、それぞれのハードルが高くなっているということもあります。一方で、現場にいると分業制をイメージしにくい部分があるのですが、どのように役割分担を考えればいいのでしょうか?

北村:発想を逆転して、論文から考えていくとよいかと思います。methodとmaterialは誰かに書いてもらう、introductionは自分で考える、など。臨床医がやらなければいけないのは、研究のアイデアを出すことです。あるグループと比較したら差が出るのではないか、その差を示すには何例必要になるのか、など、こうしたクリニカル・クエスチョンに基づく発想は、実際に臨床に携わっている人でないと持てません。逆に言えば、それ以外の部分はすべて人に任せるくらいでもいいのではないかと思います。 ただ、いきなりすべてを分業制にするのも難しいので、できるところから着手してはどうでしょうか。多くの医師が最も困っているのはおそらく英語です。であれば、英語で書くところを他の人に任せればいい。周りに英語が得意な大学院生がいるならその人に手伝ってもらえばよいし、英語でライティングや翻訳をしてくれる会社も多くあります。海外では英語が母国語の研究者ですらライターを使っているので、日本人がこれを使わない手はないと思います。

関:私の時代には自分で論文を書くのが大前提で、他の人に書いてもらうという発想を持つこと自体がありませんでした。実際に業者の方にライティングを依頼した場合、専門分野の内容を深く掘り下げて書いてもらえるのでしょうか。

橘 尚子 氏橘:ライティングは、先生方がどういう思いでどういう論文を書きたいのかということを、きちんと把握するというところから始まると考えています。一般的には、骨子になる部分を著者の先生から提供していただきます。ライティングで行うのはその肉付けということですね。その過程で双方にブレがないように、どのような図表を使うのか、引用文献で重要なものはどれなのか、ということを常に確認しながら作業を進めます。

北村:書く順番で考えると、methodとresultを先に完成してもらうのが良いでしょう。その次に打ち合わせをしてdiscussionを書いてもらい、introductionは最後でいいと思います。学会発表のポスターやスライドからでも、このような形で論文のスタイルにしていくことは可能です。発表を論文化するのは多くの臨床医にとって重荷で、1~2年放置されているということもよくあるのですが、実際に文章になってくるとモチベーションも上がってきますよ。

橘:最近は上位ジャーナルになればなるほど、情報の新しさということも求められています。例えば2年前までの文献しか引用してはいけないという制限のあるジャーナルも増えているので、その意味でもタイムリーに論文を書くことは非常に重要になっています。

臨床研究の倫理はどう変わるか

関:2017年に臨床研究法が制定され、昨今問題になった研究不正を防止するための取り組みが求められています。臨床研究を行う上で研究倫理が重視されるようになっているのですが、現場では対応に苦慮している部分もあります。例えば腫瘍学の領域では、患者さんの検体を用いてゲノム解析をしようとなると、匿名化など複雑な手続きがあり、倫理審査委員会の審査も一筋縄では行かないというのが実情です。

北村 聖 先生北村:多施設共同研究で、施設ごとに倫理基準や患者さんへの同意説明文書を作り、別々に倫理審査委員会に諮っていたのでは無駄が多く、承認までの時間にも差が出ます。それを専門に対応する役割の人を設け、できれば倫理審査委員の経験のある人が、基準や書類作りの時点からリーダーシップを取って進めるのが効率的ですし、倫理的にも質の高い研究ができるでしょう。

関:それは著者としての業績になるのでしょうか?

北村:研究に関わっていれば著者の一人ということになりますが、倫理審査の対応をしただけなら論文の謝辞にその人の貢献を記載しておくという形になります。

橘:著者である条件(オーサーシップ)は国際医学雑誌編集者委員会(ICMJE)という国際機関で定められています。少し前までは、試験のデザインを行う、データを解析する、論文の草稿を書く、といった役割を持ち、なおかつ最終稿を確認していることが著者の条件で、役割分担が認められていました。しかし、一部のパートにしか責任を持っていないことで、論文の中に齟齬が生じるという問題が起こっているので、他の人が書いたパートの内容も理解して説明することができなければならない、というところまで揺り戻しが起こっているのが最近までの流れです。

北村:日本の場合、教授であるというだけでラストオーサーに入るという慣習がかつてはありましたが、今やそれは認められず、何らかの貢献をしていなければ著者とは認められないということです。逆に、論文で不正があったとき、共著者は「自分の担当したパートではないから無関係だ」とは言えません。

関 順彦 先生(司会)関:データや画像の捏造などを意図的に行うのは論外だとして、私たちが危惧するのは自覚せずにやったことが不正になってしまうということです。臨床医が気をつけるべきポイントはありますか?

北村:多いのが外れ値の取扱いです。10例の症例で、そのまま平均すると標準偏差(SD)が大きくなるので端の値を除こうとする。こういう操作について不正を行っているという意識が低いかもしれません。しかし、これは都合のいいデータだけを用いようとしているのですから、露見すれば不正と言われかねません。また、画像データもよく話題になります。特定のレーンだけ色を濃くするような操作は明らかな不正ですが、見やすくするために全体の明るさやコントラストを変えるような操作にも気をつけたほうがよいでしょう。Photoshopで作成したファイルは、修正の履歴を追跡できてしまいます。
もうひとつ重要な問題は剽窃、いわゆるコピペ論文ですね。私が先程からライティングを外部に依頼した方がいいと言っているのは、この問題に対処するためでもあります。日本の英語教育を受けて臨床医で英語をスラスラと書ける人はほとんどいませんから、どうしてもフレーズをどこかからコピー&ペーストで引っ張ってくることになる。しかし、現在の剽窃検出システムは文単位の一致度も評価しているので、結局は引っかかってしまうのです。ですので、英語の書ける人にしっかり訳してもらう方がリスクは少ないと言えます。

太田:論文の中にはアブストラクトで見るとポジティブな結果なのに、本文を読むとポジティブではないというものもあります。アブストラクトをここまで魅力的に見せるというのは許容されるのでしょうか。

北村:おそらくプライマリーエンドポイントでは有意差は出ていないけれども、セカンダリーエンドポイントでは有意差が出ていて、アブストラクトにはその結果だけを書いているということでしょうね。

橘:ICMJEには「アブストラクトと本文の間に齟齬がないように」と明記されていますので、問題だと思います。実際のところ、学会発表のときにはポジティブな結果だったのが、データが揃ったときにネガティブになってしまい、最初に作ったアブストラクトと矛盾するということはあるようです。アブストラクトを使い回すのではなく、本文を仕上げた後に必ず見直す必要があります。

関:普通はジャーナルのレフェリーが指摘するはずなのでしょう。ただ、近年は論文を待たず学会発表もエビデンスに加えていくような方向性があるので、それが影響しているのかもしれません。

橘:ICMJEはネガティブなデータも積極的に投稿すべき、とも述べています。失敗に終わった研究を適正に公表することも求められています。

北村:ポジティブな結果の研究が論文として発表されやすいという状況はパブリケーション・バイアスと呼ばれています。Clinicaltrials.govに登録されている臨床試験のうち、論文化されているのは米国で6割、日本は3割程度とされており、ネガティブ、つまり差がないという結果が相当数埋もれていることになります。今回の臨床研究法ではその問題も考慮されていて、臨床研究の生データも保存しておくことが義務付けられました。これはいざという時の検証に使うという用途もあるのですが、統合解析に使うことも想定されています。すなわち、これまでは発表された文献からメタ解析を行っていたのですが、今後は発表されていない研究も含めて、データを提供してもらい新たな解析を行うという手法が盛んになると考えられます。

研究志向のマインドを持つ

関:最後に、臨床医が研究に取り組む意識を高めていくにはどのような取り組みが望ましいでしょうか。

北村:若い先生が筆頭著者になり研究を主導して行うには、博士論文の次のステップを用意してあげることが重要です。例えば若手萌芽研究や基盤研究などの科研費を取ることです。科研費の申請書類を作ることは論文を書く練習になりますし、資金を取ってくることで周りから評価され、研究者としての自覚につながります。何より、アプライが通らなくて何度も申請書を作り直し、上司や先輩の指導を受けながら試行錯誤する過程がこの上ないトレーニングになります。

関:私の立場では、それができる環境を整えてあげることが必要です。例えば研究室の壁に助成金や科研費の締切が書かれたようなポスターを掲示して、皆がそれを目指して書類を書く、というような雰囲気を作るなど。

橘:米国に留学していたある先生の話では、2週間ごとに研究の進捗報告を求められ、何も成果が出ていないとものすごく怒られると。それがプレッシャーだったけれども、研究の推進力になったと伺いました。

太田:そういう環境づくりをぜひお願いしたいです。自分で研究をやってみると、研究と臨床は決して別物ではなく、臨床をより深めるために研究をし、論文を書くのだ、と理解が変わってきた実感があります。一方で、システムという部分では、評価についても先生方に考えていただけるとうれしいです。臨床医として評価される基準が明確ではなく、今のところ論文数しかないという状況です。

北村:重要なご指摘だと思います。例えば太田先生に診察してほしい患者さんが毎日行列を作っていて、多くの方から感謝されている。それでポジションが上がらないとしたら、その評価は歪んでいると思います。臨床医の中にも、臨床ができる人、指導が上手な人、そして研究が得意な人がいるはずですし、それぞれに合った評価があるはずです。
だからこそ、臨床医は論文を他の人に書いてもらうことを考えるべきだと思います。臨床であれ、研究のアイデアであれ、医師には医師にしかできないことがあり、それをもって適正な評価が可能になると思いますので。

関:論文を書くというと書き方のテクニックが強調されがちですが、本日お話を伺う中で、臨床研究に対する考え方や体制づくりをしっかり行うことが重要だと改めて感じました。特に研究で医師にしかできないことは何かということを考える習慣はぜひ取り入れてみたいと思います。本日はありがとうございました。

1) 医薬産業政策研究所 政策研ニュース No.35 辰巳邦彦「主要基礎・臨床医学論文掲載数の国際比較」(2012年)