肺癌治療に関する情報誌:Lung Cancer Cutting Edge(LCCE)
2018年05月号vol.79
LCCE 特集:座談会

肺がん治療とSNS

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瀬戸:SNSを通じて情報を得たり、コミュニケーションをとることが医療従事者や患者さんの間でも一般的になってきている一方で、「勤務時間中のSNS禁止」、「発信する情報に職場を掲載しない」といったルールが病院内で広がりつつあります。リスクを重視して禁止事項を増やすのではなく、まずは患者さんにとって有益な情報を発信することの意義や方法について議論が必要だと感じています。本日は肺がん患者の会ワンステップ代表の長谷川一男さん、メディカル・モバイル・コミュニケーションズ合同会社の川上祥子さん、株式会社クリニカル・トライアルの可知健太さんをお迎えし、がん患者さんに向けた情報発信についてお話を伺います。

医療情報発信の取り組み

瀬戸:皆さんは患者さんに向けて情報を発信するにあたり、どのような目的や問題意識を持って活動されていますか。

長谷川:私は肺がん患者の会ワンステップを主宰しています。その会では患者リテラシーの向上、患者力アップを目指しています。全国組織の日本肺がん患者連絡会でも、患者力向上が大きなテーマです。自分自身の経験として肺がん患者になったとき、患者さんが集まるインターネット上の掲示板で相談事、悩みを情報交換することがありました。そのような場所を自分で作りたいと思い現在活動しています。

川上:私はNPO法人キャンサーネットジャパンという、がん情報の発信を行う非営利組織で10年間情報発信に携わってきました。活動が始まった当初、インターネットはそれほど普及しておらず、情報自体がない時代でした。患者さんたちは医療に関しては医師に一任するしかなかったのです。その状況を変えようと、米国で患者さん向けに作られた各種のがんのパンフレットを持ち帰って日本語に訳したものを全国の図書館に届ける、というところから活動をスタートし、現在は「正しい情報があれば、自分らしく向き合える」という理念のもと、情報発信を含めてさまざまな取り組みを行っています。

可知:私の会社は、2015年から「オンコロ」1)というがん情報サイトを運営しています。このサイトを立ち上げたきっかけは、治験の被験者募集がスケジュール通り進まなくなってきたことでした。治験実施医療機関だけでは、遺伝子変異などの細かい条件を満たす患者さんを集めるのは困難になってきたのです。そこで、患者さん向けに治験情報を発信する場を作り、患者さんに治験に興味を持っていただき、スムーズに治験に参加できるようなモデルを構築することが本サイトの目的です。

正しい医療情報と患者が求める医療情報

瀬戸:今インターネットにある医療情報で、正しいと言えるのは半分にも満たないのではないかと言われています。正しい情報を伝えるにはどのような取り組みが必要なのでしょう。

メディカル・モバイル・コミュニケーションズ合同会社 川上 祥子 様川上:情報の取捨選択を行い、正しい情報の見分け方も併せて伝えるという活動を長年かけて行ってきました。さらに最近では、特定の遺伝子変異に対して自分はどうなのか、といった非常に専門的な深い情報まで求められるようになっています。このような情報は、国立がん研究センターも出していて、リテラシーのある人はたどり着けるのですが、自分で情報を探せないような、大多数の受け身の患者さんにどう届けるかというところに難しさを感じています。

瀬戸:医療施設や研究機関が出す情報は正確ですが、患者さんにとって非常に取っ付きにくいのではないでしょうか。

可知:患者さん向けに専門的な情報を整理して分かりやすくすることは非常に難しいことです。そして、いくら情報提供を頑張っても、発信者側、つまり医療機関や医療者にとってリスクはあれどメリットが少ないと感じます。一方、欧米では、患者会に医師が入っていることも多く、さらにコーディネーターの役割を果たす人もいて、アドボケートに近い患者会としてうまく機能しているようです。

肺がん患者の会ワンステップ 代表 長谷川 一男 様長谷川:私も米国のような情報発信のモデルは良い参考になると考えています。例えばResearch To Practice2)という取り組みがあります。あるコンテンツでは、インタビュアーが「あなたはセカンドラインの患者に対して、免疫チェックポイント阻害薬をどのように使いますか」と聞きます。Research To Practiceが面白いのは、そこに5人の医師が出てきて、PD-L1検査をするかどうかなど、全く違う答えをするというところです。異なる意見を自由に発信できるという状況が米国の懐の深さであると同時に、これを理解できる患者側のリテラシーの高さをも示しているとも思います。

瀬戸:日本の医療施設ではなかなかできないことですね。誰がどう見るか分からないような情報発信には対応できない、つまりゼロリスクを目指し過ぎるがために、患者さん目線の情報発信源になっていないというのが問題かと思います。

川上:インターネットで得られる情報として、治療の情報の他に体験談にもニーズがあるかと思うのですが、患者さんはどう捉えているのでしょうか。

長谷川:体験談は主にブログで書かれており、それらがリンク付けされて大きなネットワークになっています。情報としては広がりがあるのですが、「それが正しい情報か」は全く担保されていないです。

瀬戸:体験談を読みたいという患者さんの気持ちは理解できます。ただ、その気持ちを悪用する人もいます。私たち医療従事者は、体験談が載っていたらそのサイトは疑った方が良いと警告せざるを得ない。体験談は正しい情報を得るためではなく、安心するための情報だということを理解して読んでいただければいいのですが。

SNSによる情報発信と双方向性

川上:近年の傾向としては、体験談の情報発信はSNSに移行しています。この数年で急速にSNSは普及していて、患者さんも私たちもよく使っていますし、医療者でも個人的に情報発信に熱心な方もたくさんおられます。これをどうやってうまくがん医療の向上に活用していけるのかと考えています。一方で、私たちの調査では病院のSNSの使用率は非常に低く、また関心度も高くないことが示されていますので(図)、それをどう高めていくかも課題です。

株式会社クリニカル・トライアル オンコロジー事業本部長 可知 健太 様可知:日本の病院のホームページを見ても、Facebookページや「いいね!」ボタンがあることは非常に珍しいです。しかし、欧米ではどの病院にもあり、学会などで最新の肺がんの情報が出たとき、足並みを揃えるように投稿するなど、日々、情報発信しています。Twitterもよく使われていて、実のところ、オンコロで発信している記事は、これらの情報を参考にしています。ただ、海外の情報は英語であるという問題がありますから、診療科や研究室といった小さな単位であっても構わないので、活発な情報発信を始めてほしいという期待があります。

川上:同時多発的にそういう組織や個人が正しい情報を出したら、正確性の低い情報を淘汰することもできますね。

可知:そのために重要なのが、顔が見えているということだと思います。海外学会に行かれているような先生から直接情報が発信されるといった戦略がSNSでは有効です。病院側は規制するのではなく、開放する方向に動いていただいた方が、より上手にSNSを活用できます。ところがFacebookページを持っているような施設でも、サイトを見ると無機質で、自分たちの広報活動が中心になってしまっているものが多いです。しかしSNSは双方向につながることが本来の目的ですから、それはSNSの戦略としては良い方法ではありません。

瀬戸:日本の病院は、どちらかというと禁止・制限することに一生懸命ですから、耳が痛いです。

川上:SNSでシェアしたくなるものや、実際に爆発的に広がりを見せるのは、やはり発信者の人となりが見えたり、熱を感じるものですよね。

可知:無機質な情報、例えば、論文情報を単に和訳しただけの情報はシェアされにくいと思います。SNSはブランド戦略ですので、日本の医師や病院の方々が積極的に使ってアピールしないと、正しくないのにブランド力の高い情報源の発信が重視されてしまい、価値があるはずの情報が埋もれてしまうことになります。

長谷川:私がいたテレビ業界でも同じようなことがあり、ドキュメンタリーと呼ばれる番組はもう番組表から消えてしまっています。制作している人たちは「俺たちはすごく良いものを作っている」と言っていたのが、いつのまにか誰にも見られなくなりました。正しいことをやっているとそれで良いと思ってしまうという心はやはりあって、しかし驕ってそれを改善せず、相手に届いていないと全く意味がないのですね。がんの治療でも、ある先生が、「医療者側は最善の医療を行っていて、結果も伴っていると思っていても、果たして患者さんはそうは思ってないんじゃないかと思うことがある」と言われたのを聞いて、ハッとしたことがあります。

可知:既存のメディア手法だと、どうしても患者さんではなく全体を意識しなければいけないので、一方通行になるし、個々人の患者さんに対して意味のある情報を届けるのは難しいでしょうね。故に、SNSを使う上でのカギになるのは双方向性だと思います。無秩序にならないように、また、医師法や薬機法等の法律にも抵触しないよう配慮しながら、発信者と患者さんとのギャップを埋めていくということを考えていければ良いと思います。

九州がんセンター 統括診療部 呼吸器腫瘍科 瀬戸 貴司 先生瀬戸:SNSのように、双方向でありながらある程度対峙する部分を選択していけるというのは良い仕組みだと思います。あとは情報を発信する側が、どのようにすれば情報が伝わるのか、またどのように情報を受け止められるのかということを研究してサイトやページの設計を考えるということですね。

長谷川:本気で相手に届けようと思えば戦略も分析も必要だし、テクニックも使わないといけないと思いますが、それを医師の方々に強いるのはちょっと望み過ぎのような気がします。

可知:その点は、専門スタッフを置くという考えがベターと思います。医師はがんの患者さんのために医療者として本当にやるべきことをやり、付随的なことは専門スタッフが考えるのが望ましいのではないでしょうか。

情報発信の仕組みづくり

長谷川:情報発信にも体制づくりが重要ということですね。その点では、私たちの課題はどのように法人として持続可能な活動の枠組みを作るかということにもあるかと思います。私自身が情報発信のことを考えるようになったきっかけは、患者さんが作ったホームページや掲示板は消えてしまうということです。医学のエビデンスは残るのですが、ホームページは管理者がいなくなれば、維持費がかかりいつの間にか削除されます。そうならないように、ボランティアではなく、関わった人たちに支払いをして組織としての取り組みが継続化されないと、情報だけでなくノウハウも消えてしまいます。

川上:非営利団体も、利益を上げるようなコアの事業を持って継続しないといけません。情報発信は1回やればいいのではなく、常に正しい情報を一定の濃度で発信し続けていかなければ意味がありませんから。米国だと患者会は、資金も集めながら継続的に安定した活動をしています。患者さんは残念ながら亡くなったりして入れ替わるのですが、組織としてしっかり活動しており、ときにはアカデミアと連携しながら活動を展開しています。

長谷川:肺がん患者連絡会の場合は任意団体ですのでさらに厳しい状況なのですが、先ごろ米国のメイヨー・クリニックから助成金を受けることができました。その中にはちゃんと人件費が含まれていました。

川上:NPOは企業からの寄付に頼る部分もあるのですが、海外のようにうまく集まらないという厳しい現状があります。その中で、SNSを活用するというのはあまりコストがかからずにできる良い方法ではあるのですが。

可知:私たちのような営利企業を利用していただいても良いと思います。例えば患者さんの発信した情報を残すということに関して、今私たちは患者会プラットフォームを準備しています。患者会に必要なツールをいくつか用意しており、無償で好きなようにカスタマイズして使うことができます。このサービスは、情報保管とITリテラシーがない人にも使いやすくしています。問題点を解決しながらお金をどのように得るかということを考えるのが営利企業ですので、患者会以外からどのように運営費を得るかの知恵をしぼっています。

患者がより良く生きるために

瀬戸:最後に、医療従事者を含めて、患者さんへの情報発信のためにどのようなパートナーシップを築いていけば良いでしょうか。

川上:患者初心者が一番頼れるのはやはり医療従事者だと思うのです。患者会と繋がりを持たず孤独なままの人も数多くいます。そういう人に、「がんや患者会の情報はここを見ればいいよ」と仲間を見つけるための最初の背中を押すという役割を医師の方々に担っていただけると心強いと思います。

可知:医師が患者さんの中に踏み込んで、コミュニケーションをとっていただけるといいですね。

瀬戸:がんと告知されたときに、その患者さんが持つであろう不安や疑問に対する、想定問答のガイドライン的なものを作っておくというのもひとつの方法かもしれませんね。そして、がんの疑いと診断された方にも、怪しい情報に惑わされないように情報源を積極的に提示していくなどできたら良いですね。

長谷川:患者会としても、質問し発信するなど、もっと積極的な役割が持てればよいと思います。医療施設がなかなかSNSに踏み込めないということなら、そこで躊躇するのではなくできることをやっていくというスタンスを取っていきたいです。患者にとっては残された時間をどのように生きるか、そのために納得して治療を受けて、自分の人生を豊かにできるかどうかということが大事であり、そのために情報はあると考えていますので。

瀬戸:本日はさまざまな意見が交わされ、充実した議論になりました。私も一医療者として引き続き情報発信に取り組んでいきたいと思います。本日はありがとうございました。