肺癌治療に関する情報誌:Lung Cancer Cutting Edge(LCCE)
2018年07月号vol.80
LCCE 特集:座談会

低線量CTによる肺癌検診の普及を目指す

千葉大学医学部附属病院 腫瘍内科 滝口 裕一先生 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 中山 富雄先生 東北医科薬科大学医学部 光学診療部 佐川 元保先生 日立健康管理センタ副センタ長、日本CT検診学会理事長 中川 徹先生 帝京大学医学部 内科学講座 腫瘍内科 関 順彦先生

滝口:本日は、日本における低線量CT(LDCT)を用いた肺癌検診の導入について、4名の専門家をお迎えし、これまでの研究の経緯を整理し、普及に向けての今後の課題を中心にお伺いします。

肺癌CT検診の臨床試験

滝口:2011年に発表された米国のNational Lung Screening Trial(NLST)試験の結果では、喫煙状態、年齢などで定義された高リスク群に対するLDCTにより、20%の肺癌死および6.7%の全死亡低減効果があることが示されました1)。これを受けて米国では、2015年に高リスク群へのLDCT検診の保険償還を承認し、国家規模の検診がスタートしています。欧州でもランダム化比較試験(NELSON試験)が進行しています。

関:世界で初めて肺癌のCT検診を行ったのは1993年、日本の「東京から肺がんをなくす会」でした。その後1995年に、X線とCTを比較したJapan Lung Cancer Screening Study(JLCSS)が行われています。これらの取り組みは日本が世界に先行していたのですが、最初の無作為化比較試験は2001年に開始されたイタリアのDANTE試験です。続く2002年には5万人を含めた大規模試験であるNLST試験が開始されました。その後は世界各地で、DLCST試験(デンマーク)、ITALUNG試験(イタリア)、MILD試験(イタリア)が死亡率を評価する無作為化試験として実施されています。
結果が最初に発表されたのはDANTE試験(2009年)で、残念ながらCT群と対照群で有意差は認められず、stage shift(進行癌の割合の減少)も認められませんでした2)。ただ、検診外発見の肺癌が多く、精度管理に疑問符がつくという側面もありました。その後の試験も、症例数が少なく検出力が不足していたり、CTを行う期間も異なっていたりという問題点を抱えていました。こうした状況で、NLSTは大規模な重喫煙者集団を対象に3年間の検診を行うことで、死亡率20%の低下というエンドポイントを達成し注目を集めました(表)。

佐川:ITALUNG試験も有意差はありませんでしたが良好な結果で3)、2018年に出る予定のNELSON試験の結果にも期待がかかっています。

日本の肺癌CT検診臨床試験とその解釈

千葉大学医学部附属病院 腫瘍内科 滝口 裕一先生滝口:初期研究において日本の役割は大きかったと言えますが、現在日本ではどのような臨床研究が行われているのでしょうか。

佐川:日本ではコホート研究は行われてきたのですが、比較試験を行うことができず、有効性の評価で欧米に水をあけられている状況です。日本でも無作為化比較試験(RCT)が必要ということで、2010年にJECS Studyを立ち上げました。日本が欧米と異なる点は、当初から非喫煙者や軽喫煙者に対してもCT検診を行っており、その成績が良いということです。これらの集団に対する検診は過剰ではないかという指摘もあるのですが、緩徐に増殖する小さい腫瘍も、女性や非喫煙者では生命に関わることが多いため、小さいうちに検出できるという点はむしろ効率が良いのではないかという意見もあります。その背景として、非喫煙者の肺癌は白人よりもアジア人のほうが多いことが挙げられます。この点が肺癌検診を考える上で重要です。そこでJECS Studyは、非喫煙者および軽喫煙者に対象を絞り、27,000人を対象としたRCTとして計画されています。

滝口:欧米では喫煙者と非喫煙者との肺癌死亡リスクの差は10~20倍程度とされていますが、日本ではどの程度の違いがあるのでしょうか。

佐川:男性で4~5倍、女性で2倍程度と考えられています。

国立がん研究センター 社会と健康研究センター 中山 富雄先生中山:米国では喫煙者が減少しており、あるコホート研究では喫煙者のリスクが非常に上がり、非喫煙者では低下しています4)。このため海外では、肺癌という疾患が喫煙者にしか起こらないという認識になっています。

関:その点を考慮すると、米国での結果をもとに日本での喫煙者に対するCT検診の位置付けを決めてよいのか、ということも課題ですね。

佐川:以前はNLSTと欧州の試験で説明できるだろうと考えられてきたのですが、日本での再現性も検討すべきかもしれません。

滝口:RCT以外の研究にはどのようなものがあるのでしょうか。

日立健康管理センタ副センタ長、日本CT検診学会理事長 中川 徹先生中川:私たちは1998年4月から、茨城県日立地区の職域を対象として50歳以上の従業員の方にLDCTによる肺癌検診を実施しています。また、地域住民に対しては、日立メディカルセンターにて2001年4月から日立市の住民検診として50歳以上の希望者に実施しており、男女のバランスを取っています。2009年3月まで延べ受診者数は約82,000例(男性56,000例、女性26,000例)、50~69歳の住民の40%が1回はCT検診を受けたと推定されます。その結果、肺癌による標準化死亡比は2000年~2004年を1とすると2005年~2009年は0.77と下がっており、特に60~69歳男性で0.68、女性は70~79歳で0.76という最大の低減効果が認められました。全国の死亡率を基準とした場合、最近5年では50~79歳で23%の死亡率低減が観察されています。女性の死亡率低減が比較的目立たない理由としては、受診率の低さと生物学的特性の違いが反映されたものと考えられています。

滝口:60~70歳で効果が大きくなるという結果ですが、ここからCT検診が推奨される年齢は推定できるのでしょうか。

中川:10年前、すなわち50代の方から受けていただくのがよいと考えています。

滝口:リスク低減効果の蓄積を考えたとき、長期に行えばこの23%の減少はより大きくなるのでしょうか。

佐川:多少は下がるかもしれませんが、一定の割合ですり抜けてしまう方はいますので同じ効果が継続することは考えにくいと思います。

関:米国の単純写真のRCT(PLCO試験)では、4年目くらいから差が出始め、その後差は縮小します5)。そのタイミングで再検診を行う必要があるかと思うのですが、NLSTでは現時点で差が開いたままのデータしかないため、CTの再検診をいつ行うべきかの推定はまだ難しいですね。

中川:次に他の癌との比較ですが、職域3万9千人での2010年~2016年の7年間の調査で、従業員の癌死亡が45%低減しています。主に寄与しているのが60%程度減少している胃癌と大腸癌で、肺癌の死亡率の減少は38%しかありません。50~65歳あたりの死亡率を減らすという意味では、満足できるデータとは言えない状況です。

関:「東京から肺がんをなくす会」のデータも同じような傾向があり、腺癌については早期発見できるのですが、扁平上皮癌や小細胞癌については進行した状態で突然見つかることが多いです。

中川:実際の症例を見ても、小細胞癌を捉えることは非常に困難で、その点が胃癌や大腸癌との大きな違いになると言えます。従って、この検診を肺癌検診と考えるのか、あるいは非小細胞肺癌検診と考えるのかというところにコンセンサスが必要で、改めて職域での禁煙活動についてもより真剣に考えなければいけないのではないかと思います。

滝口:NLSTでも小細胞癌はデータに含まれていますから、この後の追跡調査で出てくる可能性があるということですね。

帝京大学医学部 内科学講座 腫瘍内科 関 順彦先生関:扁平上皮癌や小細胞癌は10年後にも同じ集団で出てくるので、これまでの臨床試験も長期のデータを見ることでさらなる考察が可能になると考えています。

LDCTの推進に向けて

滝口:LDCT検診は有用である可能性が高いと考えられますが、日本で検診をさらに推進する上での課題は何でしょうか。

中山:NLSTでは有意差が出ているのですが、そのサブ解析では、日本での発見例の大半を占めるすりガラス様結節(GGN)については死亡にはほとんど影響せず、3分の2が過剰診断にあたると指摘されています6)。そこで、癌として検出されても治療すべきでないケースをどう判断するか、日本でのデータが必要になると考えています。また、装置としてのCTは日本では普及しているのですが、それを読影する医師や技師が不足しているため、精度管理を含めてシステムとして構築ができるかどうかも重要な課題です。

関:米国ではUS Preventive Services Task Forceが、15年間禁煙している人は受診の必要がないなどの推奨を行っていますね。

滝口:また、検診の前に医師が診察をして、癌が発見された場合にこの患者さんには手術ができるかどうかを判断してから実施することになっています。同時に、本人に検診は毎年受けるか、要精査になったら精密検査を受けるか、癌だとわかったら治療を受けるかという意思確認を行って、すべてに同意しないと検診を受けられないという仕組みになっているようです。

中山:日本では医療機関で行われる検診はサービスとしての側面が強いということが大きな違いとして挙げられます。したがって、CT検診を開始する際には、必ず終了する年齢も併せて議論し、これ以上の年齢の人には実施しないということを専門家から提言し、行政も強く認識することが重要になると考えています。

東北医科薬科大学医学部 光学診療部 佐川 元保先生佐川:CT検診に限らず、年齢によって何らかの制限をかけるという流れになりつつあります。例えば、精度管理の指標として考えたときに、75歳以上の精検受診率などは外すべきだと考えられます。それに加えて、高齢者の方への検診は、害が利益を上回ることになるため議論が必要ですね。

滝口:検診を実施する環境については、肺がんCT検診認定機構による認定制度が始まりました。

中川:2007年3月に日本医学放射線学会、日本呼吸器学会、日本呼吸器外科学会、日本肺癌学会、日本CT検診学会、日本放射線技術学会の6学会の委員で構成されたCT検診認定制度合同検討会が発足しました。そこでの議論を経て、2009年4月にNPO法人肺がんCT検診認定機構が設立され、認定医師および認定技師の認定事業が始まり、2018年2月現在で認定医師1,346名、認定技師1,250名です。そして2018年4月1日より、低線量肺癌CT検診の標準的な施設であることを認定する制度が開始されました。要件は施設内に認定医師、認定技師がそれぞれ1名以上在籍することです。 目的は肺癌CT検診の手法と検診精度の標準化を図り、実効性のある肺癌CT検診を普及させることにあります。現在、日本では人間ドックでの肺癌CT検診がいわゆる任意型として普及しているのですが、CTDI volume 2.5 mGy以下の低線量によるCT検診は3割程度しか行われていません。そこで知識を持った人材を配置し、それを標準的な施設として認定することで、LDCTを推進していくというのが狙いです。

佐川:認定制度によって、低線量でも十分に読影は可能だということを周知し被曝線量を減らすことも期待されています。

滝口:精度管理について基準などは設けられていますか。

佐川:肺がんCT検診認定機構によって撮影の条件はある程度決められており、そこで精度は担保できると考えられています。

関:被曝線量については、認定医師と認定技師が両方いる施設と、どちらかしかいない施設および両方ともいない施設では、明らかに違いがあることがわかっています。そのことが周知されれば、患者さんにとっても施設を探す判断基準になるのではと思います。

滝口:LDCT検診を任意型ではなく対策型検診として実施するには、どのような条件が必要でしょうか。

中山:対象者の開始年齢を胃癌(50歳以上)などと同様に、絞り込むことになると思われます。問題は喫煙の状態で、米国ではたばこ会社が喫煙者に対する手厚い検診の資金を提供していますが、日本では税金を使って喫煙者だけ検診を強化し手厚いサービスを行うことに対しては理解を得ることが難しいと思われます。この点は議論が必要で、おそらく非常に厳しい禁煙指導を併せて実施するということが求められるようになるのではと考えています。

佐川:エビデンスとしては、すでにNLSTの結果があり、NELSONでもポジティブということになれば、喫煙者に対して検診を行うことは有効だという議論になると予想されます。ただ、費用負担の公平性を考える必要があります。例えば、非喫煙者に対しても日本の研究で5年に1度行うのが有効だという結果が出れば、5年に1度全員に対してCT検診を実施する。ただし、喫煙者は自己負担で毎年受診するよう求めていく、というような制度設計があり得ると思います。

中川:実施要件に肺がんCT検診認定機構による施設認定を受けることが含まれると、施設認定を受けるモチベーションが高まり、制度化が大きく進むのではないかと考えています。

関:対象者を喫煙本数や年齢だけでなく、バイオマーカーで考えるなど議論が進んでいくことに期待したいです。

滝口:RNAシグネチャを調べるにはコストも考える必要があります。

関:偽陽性率や被曝線量の問題など普及に向けての課題はまだ多いと感じています。

滝口:最後に、日本CT検診学会の目指すところについてお伺いしたいと思います。

中川:肺癌のCT検診は、胃癌や大腸癌のように目覚ましい効果が期待できるかというと難しいかもしれません。しかし、実際に画像を見ることによって、受診者の方の禁煙に対するモチベーションは大きく上がります。すなわち、見える化によって、行動変容につながることが期待できるということです。
日本CT検診学会は肺癌早期発見のみならず、日本人にとって問題となるCOPD、内臓脂肪型肥満、骨粗鬆症、大腸癌のスクリーニングと禁煙支援をCT技術で切り開き、国益に資するような検診を提供できるように準備していきたいと思っております。

滝口:本日はLDCTによる肺癌検診について、現在のエビデンスや普及に向けての制度設計など貴重なご意見をいただくことができました。ありがとうございました。

1) N Engl J Med. 2011 Aug 4;365(5):395-409.

2) Am J Respir Crit Care Med. 2009 Sep 1;180(5):445-53.

3) Thorax. 2017 Sep;72(9):825-831.

4) PLoS Med. 2008 Sep 30;5(9):e185.

5) JAMA. 2011 Nov 2;306(17):1865-73.

6) JAMA Intern Med. 2014 Feb 1;174(2):269-74.