LCCE Topic
2018年07月号vol.80
LCCE 特集:座談会

後治療の影響を調整するための方法論序説 1

山中竹春先生室谷健太先生
久留米大学
バイオ統計センター 
室谷 健太 先生
横浜市立大学大学院
医学研究科
臨床統計学 
山中 竹春 先生

後治療の影響とは

抗悪性腫瘍薬のランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial; RCT)における真のエンドポイントは全生存期間(Overall Survival; OS)であることに疑いの余地はありません。しかし、OSの評価は長期に渡ることが多いため、しばしば、無増悪生存期間(Progression Free Survival; PFS)が主要エンドポイントとして用いられます。しかし近年はPFSで有意差が認められたものの、OSでは認められない臨床試験の事例が散見されています。理由は様々考えられますが、1つの理由として、後治療の影響が指摘されています[1]。OSの比較に及ぼす後治療の影響とはどのようなものなのでしょうか。

図1は後治療の影響が考えられる状況を示しています。図1-(a)はプラセボ対照のRCT、図1-(b)は実薬対照のRCTをイメージしており、各症例において、増悪(Progression Disease; PD)が起きると後続の治療薬へのスイッチが起こるという状況です。

さて、ランダム化されていれば、試験開始時点の2群の背景因子は同じで、治療法だけが異なります。ですので、1回目のPDまでの期間は、純粋にA vs プラセボ、またはA vs Bの治療効果を比較していることになります。PD後の治療は、仮に制限がなければ、最善策を講じた治療が行われます。たとえば、図1-(a)の例では、プラセボ群の症例はPD後にA薬が投与されることが多いでしょう。

厳密なクロスオーバーとは1-(b)のことを指しますが、本稿では便宜上1-(a)も1-(b)もクロスオーバーと呼ぶことにします。クロスオーバーがあると何が起きるか考えましょう。誤解を恐れずに直感的に言えば、クロスオーバーがあった時点で両群が「似通った群になる」ことが想像されます。図1-(a)では途中から両群がAになっていますし、図1-(b)では途中から両群どちらにおいても、A または Bもしくはその他の薬剤が入り乱れることになります。このようにクロスオーバーがあると、ランダム化した時点では保証されていた「治療法だけが異なる」という状態は破綻し、両群間の差は自然と薄まる方向になります。

クロスオーバーはPFSには影響しないですが、OSには影響を与えるので、クロスオーバーを許容した場合は、PFSの結果とOSの結果が合致しないケースが出てきます。図2は非小細胞肺癌における分子標的薬を含んだ第3相試験のOSハザード比とPFSハザード比の相関をプロットしたものです[2]。分子標的薬 vs プラセボ、または分子標的薬 vs 化学療法の試験群ですが、クロスオーバーの有無により、相関がかなり変わってくることがわかります。実際、クロスオーバーが禁止されている(prohibited)試験(n=20)での相関係数はr=0.73(R2=0.5341)ですが、クロスオーバーが許容されている試験(n=15)での相関係数はr=0.05(R2=0.0027)にまで低下します。このプロットにおいて相関係数が高いということは、PFSハザード比からOSハザード比が予測できることを意味しています。相関係数が低ければ、PFSハザード比の成績が良くても、OSハザード比がどうなるかはわからないということになり、PFSで得られた有意差がクロスオーバーにより薄められている傾向が見て取れます。

RCTで後治療やクロスオーバーを許容している場合のOSの評価には注意が必要であることが分かって頂けたかと思います。ではどういった対処法があるのでしょうか? 統計学的な手法によって、後治療やクロスオーバーの影響を除去した上でA vs プラセボ、もしくはA vs BのOS比較をするための方法を考えていきましょう。後治療やクロスオーバーがあるときにA vs BのOS評価をするための原始的な方法としては、後治療の種類ごとに層別して各層で通常の統計解析を行うことが考えられます。しかし、この方法は後治療の種類が多岐に渡り、1つの層内の症例数が少なくなりすぎて、正確な評価ができなくなることが一般的です。以下では、昨今、利用が増えてきているRPSFT法を紹介します。統計的側面の概説については紙面の関係から次回に譲ります。

RPSFT法

Rank preserving structural failure time(RPSFT)法は、仮にクロスオーバーがなかったとしたら、どれくらいの治療効果になるかをデータから評価する方法です。「クロスオーバーありのA vs プラセボの比較において、プラセボ群のOS中央値が10カ月だったとき、RPSFT法によりプラセボ群からクロスオーバーの影響を除去すると、プラセボ群のOS中央値はおよそ7カ月と推定された」といった具合の結果になります。クロスオーバー治療によって上乗せされた生存時間への効果をデータから推定し、その分を調整する解析になります。

2つ実例を挙げます。1つ目は消化管間質腫瘍(GIST)におけるスニチニブの第3相試験の解析において、RPSFT法を適用した有名な事例です[3]。本研究の主要エンドポイントであるTime to Tumor Progression(TTP)には統計的有意差が見られましたが、副次エンドポイントのOSには有意差はみられませんでした。クロスオーバーを許容した試験でしたが、クロスオーバーが発生した人数を調べたところ、プラセボに割り付けられた118人のうち実に103人にスニチニブへのクロスオーバーがあったことが確認されました。図3-(a)が最終解析におけるOSです。スニチニブ群のOS中央値 は72.7週で、プラセボ群は64.9週、HR=0.876(95%CI, 0.679-1.129)でした。スニチニブはOSを延長しないと考えられる結果です。一方、図3-(b)はRPSFT法でプラセボ群のクロスオーバーの影響を調整した結果です。OS中央値は72.7週 vs 39.0週, HR=0.505(95%CI, 0.262-1.134)となり、有意差はないものの、OS中央値、ハザード比、Kaplan-Meier曲線は印象深い結果となりました。

2つ目はEGFR陽性の未治療非小細胞肺癌におけるエルロチニブ vs 化学療法を比較した試験の事例です[4]。よく知られている通り、3つの試験(EURTAC、ENSURE、OPTIMAL)が行われ、いずれの試験でもエルロチニブ群は化学療法に比べて、大きな奏効率とPFSの改善を達成しましたが、OSに関する有意差は得られていませんでした。化学療法群の2次治療にEGFR-TKIが投与されていたというクロスオーバーが主要因と考えられています。そこで、クロスオーバーの影響をRPSFT法により化学療法群から除去した場合のOSの結果が報告されています(表1)。

おわりに

本稿では後治療の影響、次いでその対処法としてRPSFT法と適用例を紹介しました。後治療の影響は仮に見落としていれば薬効の適切な評価を歪める恐れがある重要な問題です。今後は後治療の影響を調整した解析はますます重要になっていくものと思われます。次回以降はInverse Probability of Censoring Weighted(IPCW)等の別の方法を紹介し、さらにRPSFTやIPCWの統計的な原理に関する直感的な説明を展開したいと思います。

参考文献:

[1] Cortés J et al. J Clin Oncol. 2012; 30(28): 3444-3447.
[2] Hotta K et al. Lung Cancer. 2013; 79(1): 20–26.
[3] Demetri GD et al. Clin Cancer Res, 2012; 18(11): 3170-3179.
[4] Wu Y et al. J Thorac Oncol, 2017; 12(11): Supp2 S2218.