肺癌治療に関する情報誌:Lung Cancer Cutting Edge(LCCE)
2018年09月号vol.81
LCCE 特集:座談会

臨床研究法の心得

国立がん研究センター東病院 呼吸器外科 坪井 正博 先生 国立がん研究センター社会と健康研究センター 生命倫理・医事法研究部 田代 志門 先生 順天堂大学医学部附属順天堂医院 呼吸器外科 高持 一矢 先生 静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科 釼持広知 先生 広島大学原爆放射線医科学研究所 腫瘍外科 津谷 康大 先生

坪井:2018年4月に、臨床研究の信頼性を高めることを目的として臨床研究法が施行されました。今回は、関係するガイダンス作成にも関わられた国立がん研究センター生命倫理・医事法研究部の田代志門先生と、呼吸器領域で活発に臨床試験に取り組んでいる順天堂大学医学部附属順天堂医院 呼吸器外科の高持一矢先生、静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科の釼持広知先生、広島大学原爆放射線医科学研究所 腫瘍外科の津谷康大先生をお迎えし、今後の臨床研究法運用に関する実際的な側面についてお伺いします。

臨床研究法によって変わること

坪井:臨床研究法の施行によって私たちが行う臨床研究はどのように変わっていくのでしょうか。

田代:大きく変わる点は主に3つです。1つ目は、同法で定義される「特定臨床研究」に該当する研究は、施設ごとに設置される倫理審査委員会ではなく、厚生労働省が認可した「認定臨床研究審査委員会」(以下「認定委員会」)に諮った上で、厚生労働大臣に研究計画の概要を届け出ることが義務付けられることです。2018年5月末の時点で、既に全国で60以上の委員会が認定されており、その詳細は厚生労働省のサイトで確認することができます。
2つ目は、利益相反(COI)の管理のあり方です。原則として厚生労働省の推奨する統一的な管理基準や申告基準に沿った管理体制をとることになり、自己申告の内容を所属機関が確認するプロセスが新たに入ることです。各施設でのCOI委員会での審査は原則不要とされており、COI管理の適切性についても最終的な判断は認定委員会が行うことになります。
3つ目は、臨床試験登録制度が変わり、jRCT(https://jrct.niph.go.jp/)という新しい臨床試験登録サイトに一元化されることです。特に重要なのは研究の開始と終了がこのサイトへの情報の登録とリンクしている点です。つまり、特定臨床研究はこのサイトに掲載された時点をもって開始され、総括報告書の概要をこのサイトに掲載した時点で研究終了となります。逆に言えば、このサイトに登録しない限り開始も終了もできなくなります。
一方で、研究を実施する際の実体的なルールに関しては、従来のGCPや研究倫理指針と大きく変わるものではありません。これまで治験や臨床試験に携わってきた先生方にとっては常識的な範囲内の変更と言えるでしょう。

臨床研究法の範囲-特定臨床研究とは

坪井:そこでまず私たちが理解しなければいけないのが、この法律の対象となっている研究とは何かということですね。

田代:はい。まずは全国の医師に特定臨床研究の範囲を知っていただくことが最重要だと考えています。臨床研究法のいう臨床研究は、これまで臨床試験や介入研究と呼ばれていたものに近く、法律上は「医薬品等を人に対して用いることにより、当該医薬品等の有効性又は安全性を明らかにする研究」と定義されています。この「医薬品等」には医療機器や再生医療等製品も含まれますが、その中で、未承認または適応外使用を伴う研究、あるいは企業資金の提供を受けて当該企業の製品を評価する研究が特定臨床研究に該当します。
逆に、公的資金を用いて適応の範囲内で行う臨床試験は、同法の対象とはなりますが、特定臨床研究には該当しないので、従来通り研究倫理指針に沿って実施することも許容されています。またこのほかに、手術手技の臨床研究や、体外診断用医薬品を用いた研究、観察研究も法律の対象外となります(図1)。

釼持:つまり、第I相試験、第II相試験などで、企業からの資金が入っている臨床試験が特定臨床研究であると考えればいいのでしょうか。

田代:企業資金が入っていなくとも、適応外使用や未承認の場合は該当します。ですので、ガイドラインで推奨されているような治療でも添付文書の記載に沿っておらず、適応外使用を含むのであれば、特定臨床研究に該当することになります。

釼持:添付文書の記載というのは、効能・効果のことを指しているのか、注意書き等のその他の記載も含まれるのでしょうか。

田代:基本的には効能・効果と用法・用量ですが、個別の事例に即して判断する必要があります。例えば、認められている用量の中で用量を変動させるような使い方であっても、ケースバイケースで相談するようにと臨床研究法のQ&Aでは示されています。

高持:適応外使用かどうかという判断が、グレーゾーンに入るものも多く存在するのではと思います。例えば外科では切除不能という適応は非常に解釈が難しく、外科的に切除が不可能な場合もありますし、内科的、腫瘍学的に切除しても意味がないという場合もあります。その専門的な部分は誰がどのように判定するのでしょうか。

田代:適応外使用は臨床研究法の中で定義しているわけではなく、あくまでも薬機法上の適応外に該当するかどうかで判断するという位置づけになっているので、最終的には厚生労働省に問い合わせることになると思います。ただ、がんに関して言うと、いま全国的な臨床試験グループが様々な試験に関する具体的な判断を厚生労働省に求めていると聞いていますので、やがておおよその判断基準は見えてくると思います。

高持:添付文書の適用外と解釈された場合に、現に行われている臨床試験の治療が保険診療外となり、医療費を払うよう指導が入るということはあるのでしょうか。

田代:確かにその懸念はありますが、そのこと自体は臨床研究法以前からも存在していたリスクで、都道府県ごとに判断も異なってくるので一概には言えないところがあります。少なくとも臨床研究法はそれを追求するための制度ではないと理解しています。

釼持:医療機器の臨床試験の場合、侵襲性は考慮されるのでしょうか。

田代:医療機器の場合、侵襲性とは直接関係がないということは、臨床研究法のQ&Aでも強調されています。特に注意が必要なのは、カテーテルなどの明らかに侵襲性があるもの以外でも、診断のための生体計測機器なども含まれる点です。一般的には「医行為」に該当するかどうかで判断することになっています。

坪井:観察研究であれば、企業の資金提供を受けていても該当しないという理解でいいでしょうか。

田代:観察研究であれば、仮に企業から資金が出ていても臨床研究法の対象にはなりません。観察研究の定義は施行規則にあるように、患者のために最適な医療を行った結果として出てくるデータを解析するというもので、その判断のための具体的な基準がQ&Aで示されています(図2)。

津谷:最初は医師主導治験として企業からの資金提供で未承認の薬剤を試験し、終了後その先の予後は観察研究として検討するような場合はどうなるのでしょうか。

田代:観察研究の定義に該当する場合は臨床研究法の対象から外れることになると考えます。ただ、判断が微妙なケースもあるので、これも個別に確認しながら行うのが妥当でしょう。

釼持:特定臨床研究だと思っていたが、そうではないと判断された場合、逆に該当しないと思っていたのに、該当すると判断された場合、その取り扱いはどうなりますか。

田代:特定臨床研究でなくても、法の定義する臨床研究に該当する場合は認定委員会で審査を行うことができますので、そのまま審査することになります。しかし、法律の対象外となる研究は、倫理指針に基づく施設の研究倫理審査委員会での審査に振り分けられることになるでしょう。
逆のほうは難しい問題です。施設の研究倫理審査委員会に特定臨床研究ではないかと思われるものが出されたときは、認定委員会に申請するよう意見すると思います。いずれにしても、当面の間は特定臨床研究かどうかの判断は慎重に行う必要があるので、関係各所と相談するプロセスを踏むことになるでしょう。

高持:もしそのような解釈の誤りで、認定委員会の承認を受けていないことが分かった場合には罰則があるのでしょうか。また、それを拾い上げようとするシステムはあるのでしょうか。

田代:悪意がなく誤解により認定委員会に申請していなかったというケースでいきなり研究者を処罰するのは考えにくいと思います。まずは厚生労働省が指導を行い、それでも従わない場合に処罰が検討されると考えています。拾い上げについては、各医療機関でも既に一定程度行われていると思いますし、別途AMED事業でUMINに登録されている試験の該当性を確認しようとする動きもあるようです。
また、企業資金が入っている場合には、おそらく企業側から「これは特定臨床研究に該当するので、今後はこのような手続きをしましょう」という話があると思います。ただ中小の企業まで含めると、すべての企業が十分に情報を得ているとは限らないので、多少不安が残ります。臨床研究法の罰則は基本的には医師に課せられるものなので、企業の絡む研究については医師が慎重に判断する必要があります。

現在進行中の研究に対する移行措置について

田代:今動いている研究も、特定臨床研究に該当するものは改めて認定委員会の承認を受ける、いわゆる「積み替え」を行う必要があります。ただし、来年の3月末までに終了するものについては、その限りではありません。

釼持:登録期間や治療期間も終わって、追跡中または論文が投稿中というステータスの試験があったときに、その積み替えの作業を行うか判断に迷うこともあるかと思います。

田代:その場合、研究者が積み替えを行わないという選択をする可能性は否定できません。特に10年など長期の追跡期間を設定している臨床試験の場合、臨床試験としてはいったん終了し、別途追跡期間の部分を観察研究として行うといったケースです。これは、制度上は施設の研究倫理審査委員会や病院長の判断によることになります。ただ、法律の趣旨としては、仮に追跡期間中であっても認定委員会の方に積み替えるというのが基本的な考え方で、それに沿って制度設計はされています。

高持:積み替えのときに、認定委員会で承認が下りず中止を余儀なくされることはあるのでしょうか。

田代:積み替えに関しては、基本的には大きな問題がなければ、制度として移し替えるだけでそのまま続けるという判断になります。ただ、今回の認定委員会の審査では、技術専門員が評価をすることになっており、疾患領域の専門家や生物統計家が評価書を書きます。それに耐えられないような試験については継続の可否そのものが問題になる可能性はあります。

高持:抗がん剤に関する臨床研究の補償保険も議論になっていると聞いていますが、積み替え時に保険に入っていない患者さんの扱いはどうなるのでしょうか。

田代:その点に関しては、経過措置に相当するものに変更はなく、途中から研究者が補償保険を購入する必要はありません。

坪井:積み替えの期間中に認定委員会からの承認を得ておかなければいけないということは、概ね10~11月ぐらいには審査に出しておかなければいけないというタイムラインですね。

田代:そのとおりです。国立がん研究センターでは中央病院の認定委員会が6月に、東病院の認定委員会が7月に初めて審査をしました。多くの認定委員会は8月頃から審査を本格化させると思います。するとその後の時期に審査が集中する可能性があるので、委員会事務局では秋から冬にかけて委員会の開催回数を増やす可能性も検討しているところです。

高持:認定委員会に申請するのに100万円近い審査料が必要になりますが、例えば試験が終わりつつあって、資金が残っていないというときはどうすればよいでしょうか。

田代:多くの認定委員会が、移行措置に関しては新規申請の半額以下の審査料を設定しています。また、審査料は認定委員会によってかなり違うので、安く設定している委員会に依頼するという選択肢もあります。

COIと研究資金の考え方

坪井:研究資金やCOIの問題について、私たちと企業の関係はどう考えればよいのでしょうか。

田代:臨床研究法が企業に対して求めているのは、臨床研究に資金提供する場合は、特定の項目を入れ込んだ契約をしなさい、ということです。そのため、奨学寄附金のような形で臨床試験に資金を入れることは原則としてできなくなっています。また、その資金提供に関して情報公表する義務があります。

津谷:奨学寄附金だけでなく、大学などの資金も入っているような資金は使えるのでしょうか。

田代:そもそも臨床研究法の趣旨は、明確な契約に基づかない形で企業由来の資金が臨床研究に流れることを防ごうというものです。ですので、NPO法人や財団、学会に特定の企業から資金が入っていて、そこから企業由来の資金が研究者に入るというパターンも、今後は契約を結び直す必要があります。

津谷:先程の積み替えに相当するもので、奨学寄附金を資金源としていた研究はどうなるのでしょうか。

田代:Q&Aでは「契約を結び直すこと」とされています。特に「来年以降も資金を出し続ける場合は契約を結び直す」ことになります。

坪井:COIについてですが、分担研究者も含めて手続きや基準については統一される形になるのでしょうか。

田代:自己申告基準や研究責任者に就くことができる個人的利益の上限などの基準については、厚生労働省から推奨基準が出されています。ただ、もともとCOI管理の仕組みがある大学などは、自分たちの方法論で管理することが否定されているわけではありません。

釼持:移行措置の試験のCOIは、申請時に分担医師である医師が申請の対象になるのでしょうか。

田代:そうです。ただし、移行措置では、個人のCOI申告は1年後の定期報告までに行うことになっています。つまり現状は研究全体に関係するCOI管理を優先しており、個々の先生たちの個人収入の報告などは先送りできるようになっています。

坪井:自己申告と実態の整合性はどこまで追求されるのでしょうか。また、差異があった場合罰則などはあるのでしょうか。

田代:自己申告した内容と施設が持っている情報を突き合わせて、大きな外れがないかを見るということですので、例えば確定申告まで見て相違があれば罰則があるという話ではありません。実際に、施設によって持っている情報量にはばらつきがあるので、事実確認のプロセスは施設によって相当異なる形になるかと思います。

坪井:つまり、自己申告は1人の医師の責任として出す。そして施設長にはその保証の義務が発生するということですね。臨床研究法が施行され、現場で自分の研究をどう進めればよいのか悩まれている方も多いと思うのですが、そうした疑問を解消するための非常に有意義な議論ができたと考えています。本日はありがとうございました。