LCCE Topic
2019年01月号vol.83
LCCE 特集:座談会

後治療の影響を調整するための方法論序説 2

山中竹春先生室谷健太先生
久留米大学
バイオ統計センター 
室谷 健太 先生
横浜市立大学大学院
医学研究科
臨床統計学 
山中 竹春 先生

ITTは大事だけど

ランダム化比較試験(RCT)における評価の基本方針はIntention To Treat (ITT)であることは周知の通りです。ITTは1度治療が割り付けられたら、その患者に「何があったとしても」割付通りに解析する考え方です。そのため、例えば治療群に割り付けられたのに実際は誤ってプラセボが投与されていたとしても解析時には実薬群として取り扱うことになります。昨今、RCTにおけるITT解析の結果を見てみると、PFSでは有意にもかかわらずOSで差がなくなった、という結果が散見されるようになりました。

ITT解析は、その治療をしようと決定した時点でどのくらい治療効果が期待できるか、を評価するものです。他方、厳密にプロトコル通りの治療が実施されたときに、どの程度の効果が期待できるか評価するにはPer Protocol Set(PPS)で解析されます。ITTは有用性(effectiveness)、PPSは有効性(efficacy)を評価しています。そのため、厳密にプロトコル治療の有効性はPPSが見ているはずですが、実際、臨床試験結果を見たときITTで差がないと、当該治療の効果はそうでもないような印象を研究者に与えてしまいます。

 プラセボ対照RCTではプラセボを受けた患者が増悪(Progression Disease; PD)後に実薬にスイッチすることがあります(クロスオーバーといいます)。その結果、スイッチ後は両群の差がなくなり、どちらも同じような予後を辿ることが予想されます。しかしITTでは初めに割付した通りに解析するので、治療をプラセボから実薬にスイッチしたことによる生存延長の恩恵が、解析上ではまるでプラセボ群の治療効果のように解析されてしまいます。このような問題に対する統計学的な対処法についてまとめていきましょう。

後治療のナイーブな調整法

後治療の調整法はこれまでいろいろと提案されてきました。はじめにシンプルな手法についてまとめて、その後、最新の手法について議論を展開していきましょう。

スイッチした症例を除外する方法

最もシンプルなアプローチはスイッチした症例を解析から除外することです。この方法が適切となるためには、プラセボ群の中でスイッチした症例と、しなかった症例の予後が同じ、という仮定が必要です。しかし、スイッチした症例は状態が悪くなったからスイッチしたはずであり、スイッチしなかった症例とその後の予後が同じ、というのは到底想定できるものではありません。適用条件を満たすことが想定しにくい以上、このアプローチは好ましくありません。また、仮にその仮定が成り立ったとしても、除外することで症例数が減るため検出力の低下も招きます。

スイッチした時点で打ち切りとする方法

これはプラセボ群の中で実薬にスイッチした症例を、スイッチした時点で打ち切り(censor)とする手法です。このアプローチはスイッチした症例のデータを「スイッチするまではイベントを起こさず生存していた」という形で解析に取り込むので、症例を除外しない分、全症例の情報を利用できています。しかし、この手法が適切となるためには、打ち切りが予後に関係していない(non-informative censoringといいます)という仮定が必要です。一般にスイッチした人は状態が悪化したから治療群にスイッチしたはずなので、ここでの打ち切りは予後と関係している打ち切り(informative censoring)と考えることが自然です。ということは、適用条件がクリアできない以上、このアプローチも好ましいとはいえません。

群を時間依存性共変量(time-varying covariate)として扱う方法

この方法は群を時間依存性共変量として取り扱う方法です。具体的には、実薬を受けているとき1、プラセボを受けているときは0とした生存時間tに依存した2値変数X(t)を導入し、X(t)をCox比例ハザードモデルに投入して治療群の効果を評価します。この手法はスイッチした症例において、そのときに受けている治療がモデルに反映されるため、前の2つに比べれば精密な解析法と考えられます。しかし、このアプローチにも問題が2つあります。

1つはこの手法が妥当であるための条件です。それはプラセボ群の中でスイッチした人と、スイッチしなかった人の間で、スイッチ後の予後が変わらないというものです。統計的には交絡因子がないこと、と言い換えられます。スイッチした人は状態が悪くなったからスイッチしたはずなので、スイッチ後の予後が同じ、という仮定には無理がありそうです。

もう1つの問題は治療効果の解釈です。割付時から実薬を投与された人の治療効果と、はじめはプラセボだったがPDになって実薬を投与された人の治療効果は同じとは考え難いです。しかし、時間依存性共変量で治療効果を評価すると、その2パターンの治療効果が混ぜ合わさって推定されてきます。仮に時間依存性共変量のハザード比(Hazard Ratio; HR)が0.7と得られたとき、誰に対してHRが0.7だったのか解釈に困ることはお分かりいただけるかと思います。

治療レジメンごとに解析する方法

最後のナイーブな調整法は治療レジメンごとのサブグループ解析です。プラセボ対照ランダム化比較試験であれば、主にA.実薬群、B.実薬にスイッチしなかったプラセボ群、C.実薬にスイッチしたプラセボ群、の3通りに分けることができますので、各々の群で予後を調べることができます。この方法は、興味ある群の予後を調べられることが利点ですが、複数の群に分割することによって症例数が少なくなり、また、患者背景もバラバラになります。さらに、生存が長期に渡り、治療ラインが進めば、当該治療以外の抗がん剤の投与も加わってきてしまいます。そうなると1つのサブグループの症例数はますます小さくなり、何を見ているのかわからなくなってしまいます。

Inverse probability censoring weighting (IPCW)

以上の通り、従来の解析法にはいろいろと問題があることが理解いただけたかと思います。ここでもう一度、プラセボ群でスイッチした症例を打ち切り扱いする方法について考えましょう。このアプローチの問題は、状態が悪くなったから実薬にスイッチした症例を、スイッチした時点で打ち切りとして取り扱うことで、その打ち切りが予後と関連してしまう点でした。この問題は、スイッチした症例としなかった症例の患者背景を揃えて、その上で治療効果を評価してやれば、ある程度解消することが期待できます。ある2群(スイッチしたvsスイッチしない)の患者背景を揃えたいとき、有力な方法はpropensity scoreに基づく手法です(室谷、山中[1])。

プラセボ群を解析対象とし、スイッチした/しなかった、の2値変数を目的変数、揃えたい患者背景を説明変数としたロジスティック回帰を適用し、スイッチする確率(p)を推定します。そして、スイッチした人は1/p倍、スイッチしなかった人は1/(1-p)倍して、2群間のpの分布を揃えます(図1)。例えば、p=0.2、すなわちスイッチする確率が0.2の患者がいたとき、その患者が実際にスイッチしていれば、重みは1/0.2=5、スイッチしていなければ1/0.8=1.25となります。直感的にいえば、元々スイッチしにくい(pが小さい)人が、実際にスイッチしていれば珍しいわけですから重みは大きくなりますし、逆にスイッチしていなければ、元々スイッチしにくい人だったのですから、珍しくないことが起きたということで重みは小さくなります。本質的にこの作業は2群のpの分布を揃えることに対応しており、pの分布が揃うことは2群の比較可能性を高めることに対応します。あとはその重み付けの下で、重み付きCox比例ハザードモデル等を利用して治療効果を推定します。なお、治療効果推定のとき、治療群の症例はスイッチとは関係がないので、重みは一律1として重み付け推定が行われます。この解析法のことをInverse probability censoring weighting (IPCW)法と呼びます。

IPCW法はスイッチした人としなかった人の患者背景を調整してスイッチに関する選択バイアスを取り除きますが、この手法にも問題点はあります。IPCW法が妥当な解析方法となるためには、スイッチするかしないかに関係する共変量(時間依存性共変量を含む)と予後に関する共変量が全て観測され、モデルに含められていることが必要です(no unmeasured confoundersの仮定[2]といいます)。この条件を確かめる術はありませんので、臨床的な観点から考察せざるを得ません。統計学的に検討すべきこととしては、例えばC統計量を用いてpの推定に用いたロジスティック回帰モデルの当てはまりの評価をしておくことは必要でしょう。IPCW法はスイッチした症例をスイッチした時点で打ち切りとして解析するアプローチにpropensity scoreの考え方を取り込んだ解析手法といえます。

おわりに

本稿ではこれまでに提案されてきた後治療の影響を調整する方法とその問題点を示し、最新の手法の1例としてIPCW法を紹介しました。図2に各手法の特徴をまとめました。またここで述べられなかったポイントについてはWatkins et al [3]などが参考になるでしょう。次回は後治療の調整法として、臨床論文にもみられるようになったRPSFT法をいくつかの事例と共に紹介したいと思います。

参考文献:

[1] 室谷健太、山中竹春 Lung Cancer Cutting Edge 2017.5月号, 9月号, 2018.3月号
[2] Robins JM. Lecture Notes in Statistics (120). Springer-Verlag; NY, 1997:69-117.
[3] Watkins C, et al. Pharmaceut Stat. 2013; 12: 348-357.