肺癌治療に関する情報誌:Lung Cancer Cutting Edge(LCCE)
2019年03月号vol.84
LCCE 特集:座談会

しっかり実践できてる? 早期からの緩和ケア

東北大学大学院 医学系研究科 緩和医療学分野 井上 彰先生 帝京大学医学部附属病院 緩和ケア内科 高木 雄亮先生 大阪医科大学附属病院 呼吸器内科・呼吸器腫瘍内科 藤阪 保仁先生 国立がん研究センター東病院 緩和医療科 松本 禎久先生

井上:近年がん治療における緩和ケアの重要性が認識されるようになり、緩和ケアの専門医や緩和ケアチームを置く医療施設も増えてきました。一方で、実際の医療現場でどのように早期から緩和ケアを導入すべきか、がん治療医との連携をどのように取るかについてはまだまだ議論が必要ではないかと考えられます。今回は、がんの緩和ケアについて造詣が深く、また自施設において先進的な取り組みをされている3名の先生をお迎えし、早期緩和ケアの取り組みと課題について議論します。

早期からの緩和ケア―継続性と専門性

井上:肺癌における早期緩和ケアの議論が活発になったきっかけは、Temelらが2010年に発表した臨床試験1)ではないかと考えられます。この試験では、進行非小細胞肺癌患者を対象に標準的がん治療のみの群と早期緩和ケアを組み合わせた群との比較を行い、早期緩和ケア群の方がQOLおよび抑うつ尺度、さらに生存期間でも有意に優れていました。もともとWHOなどからも早期緩和ケアの重要性は指摘されていたところですが、インパクトのあるエビデンスが出たことで、広く意識されるようになりました。

松本:日本でも進行肺癌患者を対象とした臨床研究が現在進行中です(J-SUPPORT 1603)2)。ランダム化比較試験として、通常ケアと治療早期からの専門的緩和ケア介入をQOL(FACT-L TOI)の変化量で評価する予定です。看護師を中心として専門的緩和ケアを提供していることやスクリーニングを組み合わせていることがTemelらの研究との違いです。

井上:この早期緩和ケアは、緩和ケアの中でどのように位置づけられるのでしょうか。

松本:早期緩和ケアは単に開始時期が早いことを指すのではなく、そこで重視されているのは、疾患そのものだけでなく、患者さんの生き方を考えるということです。経過を見るときに、症状だけにとらわれず、全体像を見渡す視点が求められます。

高木:早期緩和ケアを考える上で、まず基本的緩和ケアと専門的緩和ケアの違いについて認識しておくことが重要であると思います。すなわち、主治医を始めとして、すべての医療従事者が診断時から提供する基本的な緩和ケアがあります。その上に、緩和ケアの専門家が患者さんの状態と必要性に応じて専門的な緩和ケアを行い、積極的治療とオーバーラップさせながら次第にそのウエイトを大きくしていくというのが基盤になる考え方です。

藤阪:早期からの緩和ケアという言葉の「早期からの」の持つ意味ですが、これは単にがんと診断された時からの介入のみならず、“継続性を持った”緩和ケアを提供することと考えます。そしてこれからの道程をどのように支援していくのかを患者さんと一緒に考える、という意味が込められていると思います。

松本:継続性というのは早期緩和ケアでは重要な概念で、スポット的に緩和ケアが入るのではなく、主治医が患者さんを診るのと並行して、継続的に緩和ケアによるサポートが入り、三人四脚といったような形でケアしていくスタイルが望ましいです。そのため、主治医以外の緩和ケア医や別職種の人が、継続的に治療に関われる仕組みづくりが求められます。

井上:確かに点だけで見ていると、目の前の患者さんが辛そうじゃないから何も緩和ケアをしなくていいのではという発想も出てしまいます。しかし仮に痛みや苦しみがないとしても、他の心理的な問題や社会的な問題もあります。

藤阪:また適切な緩和ケアを行っても、残念ながら苦痛が完全にゼロにならない患者さんもおられます。そのことを嘆くのではなく、患者さんが日常生活をその人らしく少しでも過ごせるところまで苦痛を緩和することを目標に置いて継続性を持った緩和ケアを行い、そして地域や基幹病院、さらには家族へ繋いでいくという大きな流れを作っていくのも緩和ケアの大事なポイントだと思います。

緩和ケアとがん治療の連携

井上:近年、日本緩和医療学会によるPEACEプロジェクト3)などの取り組みで、緩和ケアに対する啓発が進んでいます。現場での緩和ケアと疾患治療の連携は、どのように進んでいるのでしょうか。

松本:ここ10年ほどで専門的緩和ケアへの紹介そのものが増えただけではなく、コミュニケーションの取り方や、治療経過の考え方なども変わってきていると感じます。当院では、緩和ケアの専門的な組織として、ひとつは緩和ケアチームがあり、もうひとつとして緩和ケア病棟があります。さらには、緩和ケアの外来を充実させるために力を入れており、この3つがしっかり連動しているというところが強みです。この連携のおかげで、患者さん自身の状況や疾患の治療の状況によって、さまざまな専門的緩和ケアサービスを提供できる体制ができています。入退院に伴う緩和ケアチームや緩和ケア病棟と外来、そして在宅ケアとの連携もうまくシームレスに行えるケースも出てきています。
その中での取り組みとしては、移行によるストレスを減らし、患者の意思決定により関わるために、抗がん治療中からの緩和ケア外来の受診を積極に勧めており、内科のミーティングなどでも、症状がなくても緩和ケア外来に紹介いただくようにお願いしています。その結果、治療中の患者さんを外来で診る割合が増えてきています。

高木:当院では、がん関連の入院が年間4,000例くらいで、その1割程度に緩和ケアチームが関わっています。さらにそのうち、診断されてがん治療が始まる前の方が約4分の1、がんの積極的治療中の方が半分程度、そして残りの4分の1は、治療が終了している方と、診断時から積極的治療の適応がないと判断された方です。この割合からもおわかりいただけるように、主治医側のニーズはかなり多様で、診断時の心理的な問題への対処から、治療中の全身管理まで様々な依頼を受けています。その意味で緩和ケア医は診断、治療を含めた総合内科的なスキルが求められる場面が多いと感じています。

一方で、治療医の中には自分で緩和ケアもやりたい、自分の領域にあまり入ってきてほしくないという先生もいます。そこで、当院では処方の推奨を含まない介入という仕組みを作りました。依頼フォームにチェックボックスを作っておいて、例えば心理的なケアや看護ケアだけをやってほしいというような依頼を受け付けています。オピオイドの変更などピンポイントでのサポートや、浮腫など特定の問題に限定した介入も提供しています。患者さんにとって一番不幸なのは、緩和に依頼すると面倒なことになるからといって主治医が困難な症例を抱え込んでしまうことなので、そうならないように柔軟な体制をとっています。

井上:治療スタッフのニーズをきめ細やかに取ろうとする姿勢は、まさに緩和ケア医らしいと感じます。主治医からのリクエスト以上のことを患者さんから求められたときはどうされていますか。

高木:患者さんの状態によっては緩和ケアチームから介入範囲について相談をすることもあります。ただしそのような場合は、電話でも主治医と直接コミュニケーションを取ることが大事だと考えています。そしてこちらの考えを無理強いしないようにしています。

井上:主治医でも気づかないことに緩和ケアスタッフが気づくことは多々ありますから、そこをうまく修正するのが患者さんのためになりますし、波風を立てずにフォローするというのもある意味では緩和ケア医の腕の見せどころですね。治療医サイドの立場からはいかがでしょう。

藤阪:当院では逆に、呼吸器内科・呼吸器腫瘍内科の医長クラスがカンファレンスに参加させて頂き、その臨床情報をフィードバックするようにしています。中堅クラスになるとプライマリーケアのスキルは高いので、初期対応のイロハに相当する基本的緩和ケアはある程度できていると思います。問題なのは行き詰まったり問題が生じたりしたときに、独りよがりになるのではなく、一歩引いて緩和ケアの専門家に相談ができるような意識付けをするのが目的です。

患者さんが困っている状況というのは、治療医自身も困っている状況です。したがってこの状況を打開するのは、単に患者さんのためだけではなく、状況に関与している自分たち全員にとって緩和になる。それを理解して緩和ケアチームに頼れるところは頼るという考えを持つに至ることが重要だと考えています。緩和ケアの先生たちの活動を目の当たりにすることによって周囲が見えるようになりますし、その゛見える化゛が有機的な連携に繋がります。

井上:緩和ケアを依頼することは決して自分の能力不足ではないし、積極的に他の人を巻き込むことが患者さんにとってもいいことだという認識を持つことは私たちにとっては重要ですね。

高木:その意味では、早期緩和ケアでは、仕事を分けて分担するという考え方よりも、一つの仕事を一緒にやっていくという姿勢が特に重要なのではないかと考えています。

藤阪:個別化医療の「個」が、孤独の「孤」にならないようにということを若手の医師にはよく言っています。緩和ケアというときに支持療法だけではなく、例えば薬剤師の方に外来に出向いてもらい、抗がん剤の話をしてもらうことで患者さんの不安を軽減してもらう。これも緩和ケアだと思います。その意味では医師や看護師だけではなく、自施設にいるあらゆる職種、医療資源に目を向けて、緩和ケアの全体像をイメージできればよいと思います。

個人の生き方とエビデンスをつなぐ

井上:肺癌の領域では近年次々と新薬が開発され、内科治療は常に目まぐるしく変化しています。その中でいかにして緩和ケアとの統合を果たすことができるでしょうか。

松本:がん治療では、患者さんの状態が悪くなったときに、抗がん剤の副作用なのか、病勢の悪化なのか判断の難しいケースは非常に多いですが、患者さんが緩和ケアを希望すれば提供するという体制をとっています。中には、在宅医療を受けながらゲフィチニブを服薬されている患者さんが緩和ケア病棟に入院してくるというケースもあります。入院中に分子標的薬の投与を続けるかということに関しては議論があると思うのですが、それは緩和ケアとは別の問題で、緩和ケア側も勉強して、メリットがあるならばそれに近い形で添うというのが理想的だと考えています。

井上:そのような形だと緩和ケアチームがかなり密接に関わり、治療しながら緩和ケアを行う流れが自然にできますが、緩和ケア病棟という箱の問題になると、緩和ケア病棟の入棟基準という制度的な部分が壁になるかもしれないですね。

松本:がん治療を担っていない病院や総合的な機能を持たない緩和ケア病棟で抗がん治療を背負うのはなかなか厳しいでしょう。緩和ケアは必ずしもどこでも同じように診ることができるわけではないので、そこが均てん化という意味では妨げになるのですが、それをクリアしていく必要性は感じます。特に入院治療と外来治療を行ったり来たりするようなケースでは継続的に関わることが難しいので、緩和ケアの継続性を担保するような仕組み、例えば外来・入院問わずに自由に動ける専門職を置くような方法がうまく機能するかもしれません。
また、緩和ケア医も抗がん剤治療のことを勉強したり、研修会などに出向いて腫瘍内科医の先生方とディスカッションしたりするなど、積極的にアプローチすると得られるものが多いと思います。

高木:抗がん剤治療は進歩のスピードが速く、緩和ケアサイドが完全に理解するのは難しいかもしれません。しかし少なくとも、お互いが何をしようとしているのかというニュアンスを共有することが重要だと思います。緩和ケア医の処方の推奨も変更がきかないものではないので、緩和ケア医と積極的に話していただきたいです。

井上:特に難しいのは、最近登場した免疫チェックポイント阻害薬の治療ではないかと思います。これらの薬剤は比較的毒性が低く、長く投与できるのが特徴です。その一方で、かなり後になってから免疫関連有害事象が出たりする場合もあるなど、緩和ケアチームとの綿密な情報共有が必要だと感じています。

高木:免疫チェックポイント阻害薬は毒性の問題もあるのですが、むしろpseudo-progressionの方に治療医も患者さんも過大な期待を抱きがちなことに懸念があります。つまり、まだ効くかもしれないという期待で、延々と治療を続けているようなケースですね。

井上:治療のやめどきを決める難しさですね。

高木:効く可能性が0ではない状況で治療を中止するかどうかは、エビデンスというよりも、患者さんが治療経過をどのようなストーリーで捉えているかという要素が大きい気がしています。つまり患者さんがどう生きるかという文脈の中に、最後まで戦いたいとか、他人の敷いたレールに乗せられたくないという思いが含まれるわけです。これは論理の話ではなくて生き方の問題なので、エビデンスを持ち出して話をしようとしても話は噛み合わず、かえって溝が深まりがちです。

松本:患者さんにとっても、いきなり生き方を問われてもどのように表現すればいいのかわからないことが多いですから、患者さんが現実的に困っていることに注目しながら、視野を広げていくという視点を持つと良いかもしれません。

藤阪:分子標的治療薬の時代までは、抗がん剤のやめどきの決定は、コミュニケーションスキルの要素もありました。しかし免疫チェックポイント阻害薬が導入された今、副作用の頻度が低く、もしかしたら効くかもしれない治療を本当にやめていいのかという迷いが主治医の方にもあるのです。実際に、PSが良くて、治療の意思を示している方に治療は終わりましたよと言うのは、正直なところ難しいです。

高木:エビデンス一辺倒でもなく、患者さんの生き方の問題だけのせいにもしない、その中庸を行くような第3の解決策を見つける努力が必要ですね。

井上:やはり、特に何年も患者さんと関わってきた場合、主治医の影響力は大きいと思うのです。やり続けることのメリットが証明されていない治療を、一発逆転を狙うような意識で受けるのは、結局患者さんにとって良くないということを、治療医の立場から説明しなければいけないと考えています。

藤阪:そのためには、最後にこの話をするということを前提に、積み上げてきたコミュニケーションが必要だと思います。継続性のない単なるコミュニケーションスキルでは解決できない。最初に患者さんに会った時から徐々に信頼関係を構築し、それから自分の考え方と患者さんの考え方をうまく醸成していくというような形をつくるということを考えなければいけないですね。しかし、特に難しく考える必要はなくて、肩の力を抜いて、ちょっとほほ笑みを持ちながら患者さんに向かい合う、というのが最初の一歩かなと思います。

井上:がんの早期緩和ケアをうまく進めるには、治療と緩和ケアの統合がまさに重要だということがよく分かりました。本日はありがとうございました。

1) N Engl J Med. 2010 Aug 19;363(8):733-42.

2) UMIN000025491. https://www.j-support.org/study/1603/index.html

3) http://www.jspm-peace.jp/